HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

経済政策

中国のデフレと日本のインフレから考える;政策も経済学もそのときの課題に依存する

植田日銀総裁が国債の金利上昇を是認したというので、いよいよ日本もインフレに突入するという報道が見られるようになった。例によって単純なインフレ対デフレの構図だが、これまでの黒田時代とは異なる金融政策に、おずおずと進みつつあることは間違いない…

菅義偉政権は短期で終わらないのでは?;首相になれば強い権力の行使が可能だ

次の首相は菅義偉官房長官で決まりというのは、まず間違いないだろう。では、菅政権は来年の9月までの中継ぎ・短期政権にすぎないというのはどうだろうか。派閥の談合で決まったというのは本当のことだろうが、だからといって自民党のなかの派閥力学がすべ…

英国経済はコロナ恐怖で壊滅状態;ジョンソン首相への信頼喪失が大きいらしい

英国の経済が急激に縮小して、世界にショックを与えている。第2四半期のGDPが20%以上(前期比20.4%、年率換算59.8%)も下落したのだから当然だろう。しかし、日本のGDPだってそれ以上の下落が予想されている。日本経済研究センターが7…

ジョブ・ギャランティは米国を救うか?;マクロ経済学はどこへ行く

MMT(現代貨幣理論)の理論家で雇用問題を研究しているパブリナ・チェルネバが、米外交誌『フォーリン・アフェアズ』電子版7月22日付に「ジョブ・ギャランティ(雇用保障)は失業よりずっとコストが安い」を寄稿している。3300万人もの労働者が雇…

スウェーデンは経済も悲惨らしい;この国の政策を根拠にするコロナ論は破綻した

新型コロナウイルス対策の「スウェーデン方式」が、経済活動の維持においてもほとんど効果がないことが明らかになった。これでスウェーデン方式を大きな根拠としてきた生活と経済を優先するコロナ対策論も、その支えをほぼ失ったといってよい。もっとも、そ…

デフレだから自殺増、インフレなら大丈夫?;それはまったく間違っています

失業率と自殺数との間には強い相関関係がある。つまり、失業が多くなると自殺する人が増えるのである。この相関関係については各分野からの多くの研究があって、ほとんど疑いのない事実と考えてよさそうである。 この相関関係をさらに拡大解釈して、失業率と…

魔術的マネーの時代;呪文「g>r」の魔力を検証する

新型コロナウイルスの経済的打撃から立ち上がる方法として、先進諸国が採用しているのが青天井かのように加速される財政支出である。もちろん、日本も同様で5月27日に閣議決定された第2次補正予算は31.9兆円、第1次の25.7兆円と合わせて約58…

連れてきて、こんどはタダで追い返すのか;「失業の時代」の外国人労働者

まちがいなく、これからやってくるのは「失業の時代」である。これまでも、「就職氷河期」に就職できなかった世代の問題が論じられ、「ロスジェネ」が日本の労働問題の巨大な問題として語られてきた。しかし、これからくる「失業の時代」は、生活のみならず…

複合エピデミックには間口の広い戦略が有効だ;新型コロナとバブル崩壊との闘い

いまや新型コロナウイルスの衝撃から生じた株価暴落のために、世界的に景気後退は避けられないところまできている。わが国でも新型コロナによる不況への対策がさまざま論じられているが、その多くは財政出動と金融緩和の組み合わせによって、なんとか乗り切…

和牛の輸出を2倍にすると安倍首相がいってる;いったい誰がその和牛を生産するんだ?

安倍政権は12月10日、2018年に14.9万トンだった和牛の生産量を、35年度には30万トンに倍増する計画だという。例によって数字上の辻褄合わせで、ご都合主義的なお話なのだが、そもそも肉用牛飼育の農家が激減しているなかで、いったいどうや…

和牛の精子と卵を守るそうだ;でも飼育する農家は激減している

農林水産省は和牛の海外への流出を防ぐため、交配に使われる精液や受精卵の転売などを規制する方針だという(日本経済新聞12月8日朝刊)。ちょっと遅すぎると思うが、何もしないよりはいい。しかし、他にも、もっとやるべきことがあるのではないのか。ア…

インフレでなくともバブルは起こる;もう十分に危険水域です

世界の企業の負債が急増して、アメリカ株式が最高値をつけている状況からして、もうこれは「バブル」と呼ぶことができる。もちろん、あらゆる経済学者が一致したバブルの定義などはないのだが、いくつかのファンダメンタルズと株価あるいは負債率を比較して…

いきなり社会主義ですか?;米国のマネをしても日本経済は救われない

米大統領選挙が1年後に迫り、アメリカでは民主党の候補者たちが、社会主義の色調を帯びてきたことが話題になっている。もちろん、トランプを擁する共和党側からの批判も多いが、民主党の最有力候補バイデンが、他の民主党候補を批判するさいに、ソーシャリ…

増税に「納得」していいのですか:何に使われるのか考えないと

朝日新聞の調査によると、消費増税に「納得」した人は、全体の54%に上るという(同紙10月22日付け朝刊)。今回の増税を「納得している」は自民党支持層で74%というのは分からないでもないが、無党派層でも44%に達しているのは奇妙な話である。 …

増税の影響が少ない?;それは十分に倒錯です

消費税増税を断行したけれど、それほどのマイナスの影響は出ていないようだというので、「安倍さんのやることには間違いがない」などと称賛している向きは別として、ほっとしている日本国民もどうかしている。それはもう十分に倒錯ではないのか。 この十年ほ…

秋風の吹くMMT;正体が分かってみれば猫マタギ

日本のMMT(現代貨幣理論)のファンたちは、公式入門書といわれるL・R・レイ『現代貨幣理論』の翻訳が出たので、MMTに対する批判が姿を消したなどといっているらしい。しかし、現実はまったく逆で、いよいよMMTのブームも秋風とともに下火になり…

世界経済の転落はもうそこまで来ている

争点らしい争点もないままに参議院選挙が終わり、政治の季節は過ぎ去ったような気持ちになっていたが、こんどはアメリカの経済があきらかに変調をきたしはじめた。いや、そんなことはとっくに分かっていたのだが、トランプ大統領の勢いに圧倒されて、国際経…

新しいお金の理論にはご注意を;支配するつもりで支配される

1980年代のアメリカ経済学は「マネタリズム」の時代だった。米ケインジアンとの激しい論争を制して台頭したミルトン・フリードマンの経済学が、「ヴードゥ経済学(呪術経済学)」と言われたアーサー・ラッファーの「サプライサイド経済学」とともに、レ…

お気の毒なケルトン教授;ご都合主義的な日本のMMT派

先日、MMT(現代貨幣理論)のマドンナであるステファニー・ケルトン教授が来日して講演と記者会見に臨んだ。講演や会見では、その時間のほとんどが、これまでのMMTの主張に終始しており、ネットを含む新聞や雑誌の報道も、こうした大筋の話に集中して…

MMTの思想的背景:歴史学と文化人類学

日本では最近になって注目されるようになったMMT(現代貨幣理論)だが、欧米ではそれなりに思想的な背景があって形成されたものであることは間違いがない。政治的な背景についてはすでに書いたので、ここでは経済学以外の分野での動向をみておくことにし…

忘れられた論争の歴史:ハイパーインフレと財政赤字危機

デフォルトとインフレについて、定義も条件もなしに論じる傾向があることは、すでに述べた(デフォルトとインフレ:定義なしのデタラメ論議)。今回はハイパーインフレと財政赤字について、すでに忘れ去られた、あるいは故意に忘れたことにされている研究に…

デフォルトとインフレ:定義なしのデタラメ論議

いよいよ消費税増税が現実のものとなりつつあるなかで、増税に反対する議論も盛り上がりをみせている。そのいっぽうで、日本の政府負債が対GDP比で230%に達していることから、財政破綻への恐怖がこれまで以上に高まるとともに、自国通貨でファイナン…

金融庁の『高齢社会』報告書をめぐる混乱を楽しむ

もうほとんどオコの沙汰といってよいレベルまで堕落したのが、金融庁が発表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」をめぐるドタバタである。 わたしも前期高齢者で、また、周囲には後期高齢者も多くいるので体験的にいえば、この報告書はそこそこ納得…

流行りを追うだけなら学者はいらない:浜田宏一氏への疑問

エール大学名誉教授で経済学者の浜田宏一氏が、安倍晋三首相にMMT(現代貨幣理論)についてレクチャーして、主流派も財政については、これまでと違う解釈を行うようになっていると述べたそうである。まあ、アメリカで活躍していた一流の経済学者のいうこ…

幻視のなかのMMT;日本が根拠である意味

すでに知られるようになったことだが、自国通貨を持つ国家ならば、いくら政府支出を増やしても破綻することはないと主張するMMT(現代貨幣理論)が、根拠としてきたひとつの現象は日本経済である。 日本経済はすでに政府の負債が対GDP比で200%を超…

やっぱりおかしなMMT;あまりに楽観的な世界観

「自国が発行する通貨なら、国家は無制限に発行できる。したがって、財政赤字がどれくらいになったかに関係なく、国家は完全雇用を実現し、社会保障を拡大することができる。デフォルト(国債の償還停止)など起るわけがない」 こんなことを言われたら、財政…

人は「いつまでも」働けるのか:貧相な働き方改革

安倍晋三政権は高齢化社会への対応として、また労働力の逼迫への対策として、国民が70歳まで働ける仕組みをつくるといっている。そしてそれは、国民が望んでもいるからだというのである。 しかし、国民の多くが高齢になってからも、本当に働きたいと思ってい…