HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

災害が起きても公務員がこない:なぜなら極端に少ないからです

つぎつぎと台風がやってきて、多くの災害をもたらす。いまも次の台風が接近中である。こんなときこそ防災についてあれこれ論じるべきだが、そのまえに念頭に置くべきことがある。それは日本にはあまりに公務員がすくなく、そのため防災に人員が回らなくなっているという恐るべき事実である。 

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日本は公務員が少ないというと、いまも「そんなバカな」「官僚の回し者か」などと言われかねない。しかし、事実として日本は公務員が異様に少ない。そして、台風15号のさいにも被災地の状況の把握がおくれたのは、そのための人員が割けなかったからだという指摘は、真摯に受け止めるべきだということである。

 まず、日本には公務員が少ないという事実から見ていこう。最近はネット上でこの事実を訴える人も多くなったが、小泉改革の時代に「小さな政府」が唱えられ、「日本の公務員は少ない」などと言おうものなら、「何をいっているんだ?」と返されたものである。講演などで話すと、「おい、デタラメいうな」と怒鳴られたこともあった。

 データをいくつか示そう。次のグラフはOECDの資料をもとにして作られた、ある政党のパンフレットに出てくるグラフだが、日本は極端に少ないことが分かる。

 

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立憲民主党「基本政策」より)

 

あんまり意外なので、嘘だと思っても無理はないのである。小泉改革以前にも「日本は公務員が多い」というプロパガンダが盛んで、日本の国会議員が集団で海外に視察にいったところ、日本の方がよほど少なかったので愕然としたといわれる。他のデータもあげよう。これは「野村総研」が行なったかなり「公務員」を広義に解釈した場合の比較である。ここでも圧倒的に日本は少ないことがわかる。

 

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野村総合研究所『公務員数の国際比較に関する調査』より)

 

ここまで見てもらったうえで、日本の「総務省」のデータも見てもらうことにしよう。他のデータを見たうえでなら、総務省が「忖度」か何かの理由で、デタラメの数値を発表しているわけではないことが分かるだろう。とくに地方公務員の少なさは極端で、私の周囲をみても「ひとりで何から何までやることになる」と嘆いている中間管理職は多い。

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(「社会実状データ図録」より)

 

 以上のようなデータを念頭において、次のような指摘を読めば、十分に納得がいくと思われる。千葉県の災害復旧における状況については、神戸国際大学の中村智彦教授が分析している(ヤフー・ニュース 9月17日付)。中村教授は地方公務員の激減について、「1994年(平成6年)に約328万人いた職員は、2018年(平成30年)には約274万人と55万人、17%も減少している」と指摘している。

 その結果、「市町村全体の職員数は、2005年度から2019年度の間で約11%減少しているのに対して、市町村における土木部門の職員数の減少割合は約14%であり減少割合が大きくなっている。こうした結果、技術系職員のいない市町村の割合は約三割に上っている」ということになった。これではとても駆けつけようがないだろう。

 もちろん、増員さえすれば千葉県のような災害復旧の遅れがすぐに解決するとは思わないけれども、そもそも災害がどこにどのように起こっているのかを、ちゃんと調査する人がいないのである。いくらマスコミが「復旧が遅い」とか「復旧の見通しを発表できない」と批判しても無意味である。

 増員するとしても、たとえば小さな地方公共団体の場合は、災害に関する部署がいくつかの地域にまたがるような制度があってもいい。しかし、どんな政策を考えていくにしても、公務員が極端に少ないという現実無視の「小さな政府」とか「公務員削減」という政治家が好むスローガンは、いくらなんでもお払い箱にしたい。

 ただし、日本公務員が他の国に比べれば、1人当たりの給料がよいことは以前から指摘されてきた。これは単純に考えれば「少数精鋭」なんだから当然ではないかと思われるが、もう少し考えてみてもよいかもしれない。 人数が圧倒的に少ないのだから、GDPに占める割合も少ないことになる。どういうバランスが良いのかが問題である。

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(「社会実状データ図録」より) 

 

たとえば、どこまで増員するか、そのときの地方公共団体の形態はどうあるべきかも考えておくべきだろう。日本ではいまも道州制を推奨する人がいるが(私は、反対してきた)、道州制を採用すると公務員数は実は多くなるのである。業務についてダブりが多くなるからだ。しかし、都道府県制を継続させるとしても、ダブりを徹底的に排除していくと、組織にスラック(余裕)がなくなる。

 また、給与体系についてももっと細かな分類が必要かもしれない。昔、東京のある区の「みどりのおばさん」が、当時、給与は約800万円だというので話題になったことがあった。これは職種による違いを撤廃したために生じた事態だった。

 もちろん、こうした問題はあるが、まずは「日本は公務員が少ない」という現実を認識することが大事だと思う。政治家は「公務員を減らします」という主張を売り物にすることが多かったが、もはやそんなことは国民に対する裏切りになっている。

 

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