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東谷暁による「事件」に対する解釈論

安倍政権のトランプへの「忖度」;日米貿易協定で自動車関税をプレゼント

わが国の首相は「その話はそのうちに続きをやりましょう」といわれると、「あ、これはもうOKの合図だな」と思うらしい。京都人の「考えておきますわ」ほどではないにしても、相手はトランプなのだ。勝手に自分たちに有利な判断をすれば間違うと、何故思わないのだろうか。(なお、この投稿は「日本政府は『いずれそのうち』と米国にいわれると決定と思うのか」の増補版です)

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他でもない、10月24日に国会で日米貿易協定の自動車関税の撤廃について「撤廃は勝ち取れなかったのだから、日本がの農産物の関税を引き下げる必要はなかったのではないか」と質問されて、安倍首相は「協定では単なる交渉継続ではなく、『さらなる交渉による関税撤廃』と明記した」と答えて、交渉の現実を認めなかった。

 そもそも、先日に発表された日米貿易協定の政府試算でも、アメリカの自動車および自動車部品の関税は撤廃されたことにして計算しているのだが、こんなことが認められるなら、憲法改正も首相がこのように変えたいとイメージしたとおりに改正されることになってしまうではないか。

 

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東京新聞10月25日朝刊より)


呆れるのは安倍首相だけではない。アメリカとの交渉にあたった日本の官僚たちも、日米貿易協定ではアメリカに遠慮してずるずる妥協を重ねたことが透けてみえる。9月25日にニューヨークで行われた「渋谷政策調整統括官による事務ブリーフ」によると、何の確証もないのにアメリカは継続協議のうえで自動車および自動車部品の関税撤廃をするつもりだと判断してしまっているのだ。

 「今回は米国の譲許表にはっきりと更なる交渉 “further negotiation” によって関税撤廃ということが明記されるわけですので、わが国としては、何年後に撤廃ということは書いていませんけれど、自動車と自動車部品について譲許表できちんと明記したということは、自動車と自動車部品についての米国の約束の形であると考えているところです」

 この人物、おそらく外交のプロということになっているんだろうが、ほとんど村の交渉役にもふさわしくない楽天主義者ではないか。お代官様が「その話はいずれ詳しくやって認めてやるから、いまはわしの言うことをきけばいい」というと、「へへ~、お代官さまの言う通りにしますだ」といって帰ってきたのはないのか。

 これで終わりではない。渋谷統括官は記者たちからおかしくないかと質問されて、平然として同じことを繰り返しているのだ。「さきほど言いましたが、自動車・自動車部品については、“further negotiation” と、今後のしかも “further negotiation” ですので、今後の引き続きの議論の中で具体的に何年撤廃ということを譲許表に盛り込んでおりますので、それはここに該当するというのが私どもの理解であります」。 

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この「譲許表」というのは、附属文でアメリカ側と日本側がそれぞれ交渉対象となっている物品を並べて「これはいま何%の関税だけど、何年でどのくらい下げるあるいは撤廃する」というのを、A、B、C、……と、11段階くらいに分けて印をつけて表にしたものをいう(上の図版)。しかし、“further negotiation” は譲許表そのものには入っていない。譲許表のまえの、一般的な説明のなかの最後のところに、くっつけたみたいにある文章に見られるものなのだ(下の英文)。

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外交のプロトコルは分からないので、高校程度の英文解釈で翻訳すると、「自動車および自動車部品の輸入関税は、これからの関税廃止をめざす交渉にしたがうことになる」という文章にすぎず、たとえ附属文に入っていたとしても、これで撤廃は事実上決まったなどという認識がでてくるものなのだろうか。

面白いのは(面白くないのは)、渋谷統括官が記者とのやり取りのなかで次のような発言をしてしまっていることだ。「自動車・自動車部品はすぐには下がらないのかというご質問があったように記憶しておりますが、ざっくばらんに申し上げると、自動車・自動車部品は、今のトランプ政権にとって、最も守りたい品目であります」

なんだ、これでは自動車・自動車部品の関税撤廃の「断念」あるいは「半永久的延期」は、安倍政権(と官僚たち)のトランプへの「忖度」ではないのか。しかし、そこまで忠誠心を示したからといって、トランプの恩寵を賜れるわけではない。そんなことは、この大統領の言動を見ていれば分かるではないか。

 この日米貿易協定とこの部分の条項の解釈については、日本経済新聞の記事を元にしてもう少しやっているので、そちら(「TPPの現在(8)なおも続く日米貿易協定の大本営発表」)も読んでいただければと思う。

 

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