英国の経済が急激に縮小して、世界にショックを与えている。第2四半期のGDPが20%以上(前期比20.4%、年率換算59.8%)も下落したのだから当然だろう。しかし、日本のGDPだってそれ以上の下落が予想されている。日本経済研究センターが7月9日にまとめた民間エコノミスト35人の経済見通しでは、前期比で23%下落するという予測がなされていた。
ただし、こうした数値を見るときには、何を基準としているかを見るのが大事だ。これは大変だとショックを受けて、これからの判断を狂わせてはどうしようもない。今回、発表された英国の第2四半期GDPの下落率は、「前期と比べて」ということであり、これはもちろん大きいが、すでに発表になっている他国と比べれば、いちおうはなるほどと思う数値である。
たとえば、コロナ禍でめちゃくちゃにやられているアメリカは年率で32.9%減、EUなどは40.3%減、スペインに至っては55.8%減、というわけで、まあ無理ないなあ、という感想に落ち着くだろう。コロナによる死者数が急速に低下したスウェーデンでも、前期比較では年率換算30.2%減であって(いずれも現時点でのThe Economistのデータによる)、こうしてみると本当に日本が23%減ですむなら、有難いような気にならないでもない(発表は8月17日である)。
そこで、改めて英国のGDPを見直してみると、前期比が20.4%であるのに対し、前年同期比でも21.7%ということで、これはやはりかなりの下落だということが分かる。これまで予想されていた、2020年全期間での予測9.4%減ですむかも怪しくなってくる。これは、第2四半期のGDPが8.5%減くらいでしのげると予想しての数値だった。
気になる人がいると思うので、スウェーデンの数値をあげておくが、前期比は年率30.2%減、前年同期比が8.3%減であり、2020年全期間での予想は、5.1%減とされている。前期の第1四半期が0.4%増と、下落を始めていたヨーロッパ諸国に比べてプラスだったので、異様な評価をする人もいたが、なんのことはない、コロナ感染による死者数が、この時期にはほとんど急進していなかったからである。
スウェーデンにおいて、死者数が急速に拡大した第2四半期には、さすがに経済活動が維持されたとはいえない。最近は死者数が低下したので、2020年全期間でも2%減くらいですむと楽観的予測を立てる人も出てきた。しかし、これは感染者拡大が(T細胞のおかげで)集団免疫を持続させるという仮説が正しければの話である。
さて、日本だが、これは憂慮すべきケースだと思われる。前期比で23%というと英国並みなんだなと思う人がいるかもしれないが、日本は昨年の第4四半期からGDPが下落して、もちろん、今年の第1四半期もかなりの下落を記録し、そのうえでの23%なのである。それでも、いまのところ2020年全期間での予想は5.4%減だという。これはかなり楽観的だが、いっぽう、コロナによる死亡者数の少なさから考えると、ちょっと納得できない、みじめな数値だと思う人がいるかもしれない。
こういえば、それは政府が悪い、安倍が悪いからだという人がいると思うが、それはどこまで言えるのだろうか。政府が誠実だったならば、安倍首相が有能だったら、もう少し違う展開があったのだろうか。これを厳密に考えるのは、実は、かなり難しいことだが、おおざっぱな比較でならばできないこともない。それは、他でもない、英国が被っているコロナ禍に比較して、あまりに激しい経済の落ち込みを示したのは何故か、前出の英経済誌ジ・エコノミストがいちおう解明を試みているからだ。
同誌によると、コロナ禍が鎮まってきているのに、英国人はちっとも外に出かけようとしなくなってしまったからだという。コロナ禍のあまりの衝撃によって、人々は行動力を失っているようだと、データに基づいて述べている。とりあえず、同誌のグラフから読み取ってみよう。
まず、ヨーロッパの他国がすでにモビリティ(移動性)を回復し、テレワークから脱出し始めているのに、英国はかなり後れをとっている(上のグラフ)。ロンドンに至っては、1週間のうち5日以上テレワークを続けているビジネスマンがまだ半分くらいいるのである。完全に出勤している人は2割に満たない(下の図版)。情報通信企業やIT崇拝者を喜ばすようなデータだが、ビジネスというものが人間の全人格を発揮して行うものなら、こんなデータは衰退の証拠というしかない。
これはすでに「コモドンの空飛ぶ書斎」で紹介したが、アメリカの場合でも政府の規制そのものよりも、急速にコロナ禍が拡大して多くの人が亡くなるという「死への恐怖」が、経済活動を低下させるという研究がある。興味深いのは、それがリベラル系ではなく新自由主義系の研究所が提示していることだ。
日本を考えてみれば、おそらく英国ほどモビリティが失われたとは思えない。それは東京で生活していれば、電車もラッシュ時には「肩が触れ合う程度」になっているし、スーパーにいけば大勢の客が歩き回っていることからもわかる。けっしてよいことではないが、若者の感染者数も伸びている。また、死者数の急伸はいまのところない。
しかし、そのいっぽうで将来への予測が立たないという点では、これまで経験したことのない事態に陥っている。なにせ、コロナ禍についての見通しを、まさに政治のトップである安倍首相が何も述べないのである。これは前代未聞の事態であろう。
さて、ジ・エコノミスト誌は恐怖が蔓延して英国経済が縮小した理由を、どのように考えているだろうか。それは「はっきりしない(not clear)」と述べてはいるが、ひとつの仮説を立てている。それは、コロナ禍が激しかったこともあるが、同時にジョンソン首相への信頼が大きく失われたからだというのだ。
ある世論調査によれば、英国民の43%は政府のコロナ対策に不満をもっており、世界平均の29%を大きく上回っているという。はっきりいって、「それは、首相が悪いから」の典型だが、これが必ずしも否定できないのは、私たちも安倍首相という、もうひとつの検討を要する実例が、目の前にあるからである。
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