HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

モデルナとファイザーのワクチンの違い;有効性だけでなく4つほどあります

「コロナ・ワクチンが出来るのを待つのは、やってくるバスを待っているのとちょっと似ている」と英経済誌ジ・エコノミスト11月17日号は書いているが、バス停はいまも惨憺たる荒野のなかにあるといってよい。英国では同日に死亡率が一気に40%も上昇して国民を震え上がらせている。

f:id:HatsugenToday:20201118134054p:plain

とはいえ、9日のファイザー=ビオンテックのワクチン治験良好の発表に続いて、16日にはモデルナのワクチン治験がさらに良い結果を収めたとの報道は、ちょっと世界を明るくしたことは間違いない。ファイザーが有効性90%だったのに対して、モデルナは94.5%だというのだから、数日の間に科学の大きな進歩が生じたような気すらする。

 もちろん、ふたつのワクチンには違いがある。まず、この有効性の違いだが、ファイザーは4万数千人の治験対象者のうち94人の発症者から、90%という数字を割り出したと述べているだけだ。いっぽう、モデルナは治験者3万人で発症者が95人であり、5人が本物のワクチン接種者、90人が偽薬(プラセボ)の接種者だったと発表しているので、ずっと説明も分かりやすいものだった。

 また例によって素人の単純計算をしておくと、有効性=1-(本物薬感染割合/偽薬感染割合)をそのまま適用して、モデルナの場合、3万人の治験者の半分ずつに本物の偽薬を分けて試験したとすれば、有効性=1-{(5/15000)/(90/15000)}=0.944444……で、まあ94.5%、こんなところだろうと分かる。

 こうした有効性の数値だけでなく、他にもモデルナ社の発表からは、ファイザー社のときとはことなる違いが読み取れる。ファイザーの場合には発症者のなかに重症者がいるかいないかは分からなかったので、90%という数値は若い人だけに治験を限ったのではないかといわれていた(*)

f:id:HatsugenToday:20201022235703p:plain

しかし、モデルナ社は11人の重症者がいることを発表したので、これは65歳以上の治験者がいたことが推測できるのである。これは重症になるリスクが高いことを承知のうえで偽薬を投入したことになるので、実は、医療倫理的な問題もあるのだが、それでもなおかつ94.5%の成績をあげたということでもある。

 2つのワクチンの違いはこれだけではない。やはり、もっとも大きいのはファイザーの場合にはマイナス70度以下でないと輸送も保存もできないのに対して、モデルナは8度から10度という家庭用冷蔵庫でも可能な温度で30日、さらにマイナス20度であればもっと持つというわけで、これが実は最大の「進歩」あるいは「違い」と言えるだろう。

 さて、もうひとつ大きな違いがある。値段である。ファイザーは2回の接種に40ドル~60ドルといわれていたが、モデルナは6ドルから8ドルだというのだ。これも決定的にこれからの普及にとっては有利な数値というべきである。同じくメッセンジャーRNA型のワクチンなのに、ここまで大きな違いが出てくるというのは、やはり、保存温度のアドバンテージからくるものと思われる。

 何から何までモデルナのほうが有利なようだが、もちろん、これからもっと詳しいデーターが発表されないと、確かなことはいえない。まだ、どれくらいの製造速度が可能なのかという点についても、正確なことはわからない。そして、もうひとつ、かなりのレベルまでいっていたという、アストラゼネカなどのワクチンはどうなったのかも知りたい。

 たしか、アストラゼネカのワクチンは、ファイザーやモデルナのメッセンジャーRNA型とはことなる方法論による異なる型のワクチンだったはずだ。また、治療薬についての報道が少ないが、こちらも詳しく分からなければ、これからどのような対策がとられていくべきなのか、一般の人たちには想像することすらむずかしい。

 治療薬というと、トランプ大統領をたちまち「復活」させた「抗体カクテル」は、その後、どのような評価を受けているのだろうか。また、同じくトランプに投与された抗ウイルス薬であるレムデシベルが、WHOに効果を否定されたが、これに対して同薬を承認している日本政府はどのように考えているのだろうか。こんなことも、いまの急激な感染拡大のなかで、整合性のあるかたちで、当局の見解を聞きたいものだ。

 

註*)18日の一部の報道では、ファイザーは有効性を95%と訂正し、65歳以上でも94%の有効性があると述べているとのことである。(19日11:14)