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東谷暁による「事件」に対する解釈論

暗殺は遠隔操作の武器で行われた;イランの核科学者を抹殺した手法

イランの核科学者モフセン・ファクリザデの暗殺は、遠隔操作の武器によって行われたとの説が出てきた。イラン革命防衛隊に近いといわれる「ファルス通信」の発表によるが、暗殺現場に散乱する自動車の破片の写真などを見ると、かなり説得力のあるものと思われてくる。

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11月30日付の英紙ザ・タイムズに掲載された「イランの核指導者モフセン・ファクリザデは『遠隔操作の武器』で殺された」によれば、「ファクリザデの自動車は、日産の軽トラックに積まれた遠隔操作のマシンガンによって狙撃され、このトラックは自爆装置によって爆発した」とファルス通信は述べているという。

 狙撃された直後の報道では、数台で移動していたところを、待ち伏せしていた12人ほどの暗殺団によって襲われ、ファクリザデは車から外に出で、病院に運ばれたが死亡が確認されたとされていた。この12人という数値がどうも気になるのだが、なかには映画『ミュンヘン』に登場するイスラエルの報復団と重ねて書いていた報道もあり、まだまだ、不確実な情報が飛び交っていることを思わせていた。次はザ・タイムズの記述。

「ファルス通信は、ファクリザデ博士は車から降りているが、それは何かにぶつかったと思ったからか、あるいはエンジンに問題が生まれたからだという。誰もこの襲撃の首謀者だと公言する者はいないが、テヘラン政府はイスラエルに責任があるという」

 英紙なので自国の動きを報じている。少しだけ紹介しておくと、英外務大臣のドミニク・ラーブは「わたしたちはイランで何が起こったか、すべての事実が分かるのを待っているが、国際人道法のルールに従うことになるだろう。こんどの事件は明らかにシビリアンを狙ったものだった」とコメントしている。シビリアンといってよいかは微妙だが、英国のだいたいの立場は分かる。

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The Timesより:現場に散乱する破片

 

同記事は、この事件の背景にはトランプ大統領の「最大限の圧力」をかけるという米イラン外交政策があって、ヨーロッパ諸国はトランプの政策には懐疑的だったと指摘している。さらに、この政策の見直しをすると思われるジョー・バイデンが大統領に就任するまでの間に起きたことを、無視するわけにはいかないと述べている。

 同日に掲載された、アンシェル・フェファーによる解説「ホワイト・ハウスの黄昏時に起こった暗殺事件」では、イスラエルの情報機関モサドに触れながら、イスラエルの高官は同国は戦争に踏み出す気はないし、また、急速に軍事的なエスカレーションが起こるという確率は「たぶん低い」と述べていることを紹介している。

その一方で、この事件がホワイト・ハウスの黄昏時(トランプ政権からバイデン政権への移行期)に起こったことを指摘して、バイデンが米大統領に就任するまでは、イランも報復に出ることはないのではないかという。というのも、バイデン政権はおそらくモサドが行なった今回のような攻撃を、抑制していくと見られているからである。

 楽観的にみればそうだといえるが、イスラエルとイランがこれからアメリカに従うという保証はない。イランはすでにイスラエル周辺のシリアやレバノンの反イスラエル勢力にミサイルを供与しており、こうした武装勢力が代理戦争として、突発的に「報復」を行うという危険は残っている。バイデンの手腕が試されるが、難しい中東情勢について頼みにしてよい大統領なのかは、(犬と遊んでいて骨折したのはともかく)やはり疑問符が付くだろう。

 

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