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東谷暁による「事件」に対する解釈論

米バイデン政権の200兆円はどこへ行くのか;レストラン、コンサート会場、そして航空製造業が勝者だという

アメリカの上院は、3月6日にバイデン政権の1.9兆ドル(約200兆円)規模のコロナ対策法案を可決した。日本の報道で注目しているのは、1人あたり最大で1400ドル(約15万円)の現金給付だが、ほかにも財政難に陥った地方公共団体への3500億ドルの支援があり、そしてコロナ禍で最も苦しんだ産業への援助である。

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米紙ワシントン・ポスト3月7日付は「バイデンの支援パッケージにおける勝者は誰か:レストラン業、コンサート開催業、そして航空機製造業である」という記事を掲載している。繰り返されている言葉が「まっさきに閉鎖されて、最後に再開するビジネス」で、コロナ禍による被害が大きいところに支援を篤くする方針が盛り込まれているというわけだ。

ただし、こうしたコロナ禍に苦しんだ業界が、黙ってバイデン政権の支援を待っていたわけではない。そこには、当然のことながらロビング活動が行われ、激しいつばぜり合いもあったわけである。たとえば、飲食業界だが全米に草の根的に広がったネットワークを動かして議員たちに激しく働きかけた。

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watingtonpost.comより


 「レストラン業界(飲食業界)が、こんどの法案で最大の民間業界部門での勝者だ。そのパッケージは286億ドルの『再生ファンド』が飲食業界のために積み上げられ、コロナ禍によるこの業界での損失を補填するのを助けることになっている」

 ナショナル・レストラン協会の副会長であるショーン・ケネディによれば、「飲食業ほど今回のコロナ禍で仕事を失った業界はなかったのです。なにせ、われわれのビジネスは最初に閉鎖され、最後にようやく再開されるわけですからね。私たちは経営再建にこれからも長くかかると思いますよ」。

コロナ禍が広がるとすぐに規制の対象になったのは、催し物会場も同じことだった。しかし、ナショナル・インディペンデント・ヴェニュ協会は、全国規模のネットワークをもっていなかった。そこで、コロナ禍が始まるや、多くの地域団体が連絡を取り合って議員たちに働きかけるロビング活動を始める。そのネットワークは現在3000団体にまで拡大したという。

 似たような業界にジム経営とフィットネス・クラブがある。この業界のロビイストであるブレット・エウァーによれば「ジム経営業のざっと5分の1が昨年閉鎖に追い込まれた」という。「エクササイズとかフィジカル・アクティヴィティは人間にとって基本的なことなんです。そのために、私たちには共通の場が必要なんすよ」。この業界も昨年10月に連合会を結成して、有力な政治家たちにロビングを加速している。

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もうひとつ、コロナ禍で大きな被害をうけた業界に航空業界がある。飛行機が飛ばなくなれば、パイロットもアテンダントも不要になる。また、ものすごい数の部品も交換する必要がなくなれば、しばらくは製造中止である。航空機製造業においては、大量の解雇と激しいサプライチェーンの崩壊があった。これまではお互いに激しく競ってきたが、今回は雇用対策のための援助を議会に働きかけた。

 ところが、「150億ドルの基金を求めたが、残念ながら議員たちに30億ドルまで削減され、期間も1年から半年にされた」。しかし、ジェネラル航空製造業協会の会長ピート・バンスは、「ともかく、サプライチェーンパンデミックが終息するまで維持することが必要なんです」と語って、さらに活動を継続するようである。

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bloomberg.com 2月21日付より;上院を通過するさい修正されている


こうした活動は日本でも行われているわけだろうが、どうもそれが国民を納得させるオープンな形で行われていない。アメリカのロビーストやロビングの暗黒面は嫌というほど報じられてきたが、それでも日本の場合は、どのように業界が働きかけをしているのか、オープンな形でデータを提示して議論されないことがやはり気になる。