HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

自業自得? ロシアのワクチンは自国では信頼なし;欧米ワクチンへの誹謗中傷作戦の果て

ロシアという国が、インテリジェンス(諜報活動)に熱心な国であることは、むかしから知られていた。その国が新型コロナ・ワクチンについて、なにも諜報活動を実行しないと考えるほうがおかしいだろう。事実、自国でも世界で最初に認可した「スプートニクV」を持ちながら(持っているからこそ)、欧米のワクチンを貶めるプロパガンダを盛んに行っているらしいのである。

f:id:HatsugenToday:20210309135234p:plain


 ウォールストリート・ジャーナル紙3月8日付は、ロシアがさまざまな拠点をつくって、ファイザーやモデルナのワクチンについて、開発でのいかがわしさや安全性への疑問を訴えているという。ウォールストリート紙によれば、米国務省のグローバル・エンゲージメント・センター(GEC)は、これまでにロシア情報機関が少なくとも4つのサイトを使って、こうした諜報活動を展開してきたことを確認している。

 もちろん、こうした指摘に対してロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は、自国の情報機関が欧米のワクチンについて根拠のない情報を流していることを否定し、例によって逆にアメリカを牽制している。

 「それはまったくのナンセンス。ロシアの情報機関はワクチンへのいかなる批判とも無関係である。そもそも、わが国のワクチンであるスプートニクVに対して、アメリカの情報機関がからむ否定的情報にこだわるなら、それは毎日、毎時間、すべてのアングロサクソン系メディアに、腹を立てていなければならないだろう」

 しかし、前出の米国GECの担当官は、4つのサイトがロシアの情報機関と直接のつながりがあり、ロシア政府の指揮のもとに世界のワクチン事情について、誤った認識を広めるのに多大の貢献をしてきたと断じている。米政府のスポークスマンも、具体的な証拠は提示してはいないが、コロナ禍についての有害な情報を流していることを認識している。

f:id:HatsugenToday:20201112115125p:plain


 「ロシアの情報機関はこの4つのサイトがプロパガンダやウソの情報を流していることについて責任がある。コロナのパンデミックが始まった当初から、われわれはロシアがニセ情報や誤った見解を流してきたことを観察してきた」

 ここまでの話なら、ああ、やっぱりかと思うだけだろう。ところが、ウォールストリート紙は次の日(3月9日)にも、ロシアのワクチン情報問題について続報を掲載した。タイトルは「ロシアのコロナ・ワクチンは外国に輸出されているが、本国では信頼がない」というものだ。

 「国内ではワクチンは無料で接種できるというのに、いまのところロシアではワクチン接種はわずか3.5%と低い。アメリカが17.1%、英国が32.1%に達しているのに、これはどうしたことだろう」 

少し前にロシア国民の多くが、コロナ・ワクチンは「一種の武器」であって、戦略的に使われていると考えているという報道があったが、逆にいえば「まともなワクチンではない」と疑っている人たちが多いということだ。しかも、プーチン大統領は自分の娘にスプトニクVを接種させたと発表したが、実は、まだ自分は接種を受けていない。

 「ロシアのプーチン大統領は、国営テレビや外国の指導者との対話では、自国のワクチンを自慢げに語るのが常だが、自分自身はまだ接種を受けていない。クレムリンは晩夏あるいは初秋には接種を受けることになっていると侍医がいっていると語っている」

f:id:HatsugenToday:20210309135546p:plain


これではますます、ロシア国民の間に「このワクチンはいかがわしい」という疑いが生まれてしまうだろう。また、ロシアからワクチンの供与を受けねばならない多くの途上国においても、ロシア製への疑いが生まれることになる。さらには、多くの途上国に「コロナ・ワクチンは危ないものだ」という感情的な反発を生み出す危険もある。それは回りまわって、ロシア国内のワクチン接種を遅滞させることになるかもしれない。こうした現象をブーメラン効果あるいは自業自得という。

 日本の場合は、先進国のなかでも「ワクチン後進国」といわれ、ワクチン接種に対する懐疑的な人が多いことは、アンケートでも実証されてきた。それが今回のワクチン接種に大きな影響を与えるのではとの憂慮もあった。いまのところ、まだ接種ケースが少ないせいもあって、根拠のない反発が生じるにはいたっていない。ロシアとは比べる気はないが、わが国の首相も「上級国民批判」など恐れずに、ちゃんとワクチン接種を受けてみせたほうがよいように思われる。