HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

もうアベノミクスの影から脱却すべきだ;この10年をしっかりと見直す必要

いまの日本の消費がリバウンドなんかするのか、という疑問があるのは当然だ。しかし、一時的なリバウンドと、継続的に消費が上昇して、やがて日銀念願のインフレ率2.0%を達成することとは異なる。経済の話をするさいにはレベル(水準)とチェンジ(変化)を分けたほうがよい。一時的なチェンジにおいては今もリバウンドの可能性があり、長期的なレベルにおいては懐疑的になったほうがいいだろう。 

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背中にいつまで疫病神を背負っているのか


ちょうど、ウォールストリート紙3月9日付にマイク・バードの「日本が再び世界経済で見当違いをする危険」を寄稿している。バードは日銀の「弾は尽きた」ことを再論して、これまでの日本経済における政策を振り返ることを勧めている。

 「率直で正直な現在の日本経済の評価が必要だ。それはアベノミクスの成功と失敗についての反省を含めてのことだ。2012年末から2019年末にかけて、日本の国内総生産の成長率は30年でみたとき最高のレベルにあった。日銀はそれをサポートしたわけだが、しかし、2.0%のインフレ率は達成できなかった」

 なぜ、そうなったのか。バードはやや単純に金融政策だけではだめで、財政出動が必要だったという。これはもう今や、まともに日本経済を考えてきた人間に常識になったといってよいが、彼はリポートのなかで、きわめて分かりやすく作られたグラフを提示している。アベノミクスは金融緩和はしたかもしれないが、ほとんど財政支出には熱心ではなかったということが、すぐに分かる。

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wsj.comより:すこし回復しただけで財政支出を減らした


2014年に金融緩和と財政支出の効果がある程度出てきたところで、ある雑誌に竹中平蔵氏の「ネオアベノミクス」への転換を主張する論文が載った。もう財政支出はいらないから金融政策と構造改革で十分だという論旨だった。まだ東日本大震災の影響から脱却していないこの時期に、またしても日本の経済政策は袋小路に入っていったのだ。

 当時、自民党の中枢においても、インフレターゲットがこんなに効くなら、財政支出なんか縮小してもいいという雰囲気が広がっていた。しかし、十分に注意深く経済を見ていれば、インフレターゲット論が述べているようなデータが上がっていないことに気づいたはずである。このグラフは追加予算などがどのように扱われているのか不明だが、ともかく楽観的な見通しが支配的だったことが分かる。

 このグラフを見ればMMTがどうだ、ブランシャールがどうだという以前に、せっかくのチャンスをみすみす失った、奇妙な政権があったということだけが、強く印象づけられるだろう。その後、当時の首相は単に長いだけの政権を維持して、いよいよコロナ禍が本格すると敵前逃亡してしまった。その意味では菅首相はお気の毒というべきだが、しかし、いつまでも発想の中心に「自助」を置くのはばかげている。それは個人の指針でありえても、災害不況の最中に一国のリーダーが掲げる目標ではありえない。

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wsj.comより:ちょっと回復してはまた戻る消費


ちなみに、前出のバードが昨年9月15日に書いた「スプーン1杯の砂糖が日本のポスト安倍の経済を甘くする」では、菅政権は金融政策と構造改革アベノミクスから脱却すべきだと説いていた。このグラフはそのリポートに付帯していたもので、消費はそれぞれの状況で激しく上下することと、長期的にはずるずると下落したこと。そして、コロナ禍によってどれほど下落したかを、如実に示してくれている。