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東谷暁による「事件」に対する解釈論

GDPが戦後最大の落ち込みだって?;菅首相はまず「お詫び」するのをやめよ

 今年の第1四半期の実質伸び率はマイナス5.1%で、報道によると2020年度もマイナス4.6%と戦後最大の落ち込みだという。直前の民間機関の予測が第1四半期は平均マイナス4.6%だったので、とんでもない落ち込みのようにがなり立てる論者もいるが、菅政権の政策を知っていれば「まあ、こんなものではないか」と、冷静に受け止めた人も多かったのではないかと思われる。

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大嵐を前にして、国民に詫びてどうする


内訳をみると、GDPの半分を占める個人消費が前期比でマイナス1.4%、内需の柱である設備投資がマイナス1.4%、住宅投資はプラス1.1%だったが、公共投資はマイナス1.1%というわけで、これは文句なく政府の無策の結果といってよい。予測されたコロナ禍の悪化にもかかわらず、公共投資を減らしているところなど、「自助」を掲げる菅政権ならではといってもよいだろう。

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日本経済新聞より:年率換算は極端な印象になりがちだ


政府支出だけを見てもマイナス1.8%で、どのような状況での経済政策をやっているのか分かってないらしく、さすがに首をかしげてしまう。戦前の経済政策などでは、「ここらで少し中小企業の数を減らしておこうか」という、恐るべき発想があったが、なんだか100年も前の経済政策感覚のようにすら思えてしまう。

何より顕著なのは、国民の「期待」を下落させてしまう政策をとっていることで、その最大のものが「ワクチン敗戦」にいたる失態である。世界のフェイズはすでに「ワクチンによるコロナからの脱却」に向かっているのに、先進国で最低のワクチン接種率3.4%では、どんなに楽観的な消費者も経営者も、消費をしたり投資を試みたりするわけがないだろう。改めて思うのは、苦労人が売りものの菅首相は、けっきょく、市井の苦労人の気持ちなど、まったく読めないという事実である。

まず、お詫びするのをやめてはどうか。世界でもまれな失敗を繰り返したすえに、「心からお詫びします」などと言われても、国民は消費もしないし投資も企てない。どっちらけるだけだ。この政権のもとでは、いつコロナ禍から脱却できるか分からないのに、そんな呑気な判断をする国民がいるほうがおかしいだろう。まず、ワクチンの獲得量を正確に発表して、本当に7月に高齢者の接種を終えたいなら、それなりの行動をしてはどうか。

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ファイザーがこれ以上ワクチンを売ってくれないというなら、モデルナに直接交渉してはどうか。それでも足りないなら、副反応があるけれどアストラゼネカやジョンソン&ジョンソンのワクチンを、高齢者限定で接種することも考えてはどうか。もういちど日本医師会とやりあって、大量接種中心の戦略を考えてみてはどうか。

政府支出というと、すぐにGOTOに走るが、別に観光と飲食の分野だけが、消費や投資をかきたてる分野ではない。これまでの公共投資はもちろんのこと、これからのことを考えて、ワクチンや治療薬の研究への政府支出を思いっきり増やしてはどうか。もちろん、医療制度も強化する必要があるから、この分野でも支出は必要だろう。先進国でもきわめて少ない教育関係にも、うんと金を回してはどうか。

いずれにせよ、将来への道筋が必要なのだ。これからの行動にかんして確信がもてるもの、あえていえば確信をもつための種子でもいい。ところが、菅政権というのは奇妙なことに、こうした種を撒くということをまったくやらないのである。これまでの政治経済史を振り返っていただきたい。こうした種まきをするのは、そして、それがやりやすいのは、平穏なときではなく、むしろ危機に直面しているときなのである。

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日本経済新聞より:今のような時こそ期待が経済を動かす


菅首相は、予想はされたことだが、ひたすら受け身の政治家であって、繰り出す戦術というのが小手先の人事というのに顕著である。コロナ対策で4人もの閣僚に責任を分散させるなどという政策は聞いたことがない。昔から経営者を評する場合、「すぐれた経営者は人を動かす、ダメな経営者は人事を動かす、もっとダメな経営者は机を動かす」などと言われるが、私は本当に机を動かした経営者に会ったことがある。いまのところ菅首相はけっしてすぐれた経営者ではない。政治家は経営者とは違うと思ったら、これまでの歴代首相を振り返ってみればいい。やっぱり、小手先で何とかしようという政治家はロクな者がいないのだ。

繰り返すが、いま日本に必要なのは、首相が謝るのを見て喜ぶことではない。目の前の課題に次々と取り組む政治家の行動と発言を受けとめて、これからのコロナ禍脱却のスケジュールを予想し、消費や投資に向かうことなのだ。その期待に応えられない政治家というのは、苦労しているかどうかは関係なく、信頼を得られるはずはないのである。