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東谷暁による「事件」に対する解釈論

いま中国経済に起こっていること;恒大集団の破綻はバブル崩壊の引き金だ

この数日間、いよいよ来るべきものが来たと思わせる出来事が連続して起こっている。ほかでもない、中国恒大集団の経営危機である。9月13日には投資家たちが100人ほど、恒大集団の本社に押しかけて、理財商品(資産運用商品)のデフォルトについて抗議を行った。翌14日にはさらに、同社の株価が下落して、他の企業への波及が懸念されている。

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中国の不動産を中心とするコングロマリット中国恒大集団は、急速に事業を拡大してきたことで知られる。本社以外にも上場している不動産管理会社とEV企業の株式を保有し、2社合わせて約160億ドル相当の価値があるとされ、急成長の象徴とされてきた。しかし、それだけに財政基盤は脆弱だったのである。

中国政府が住宅価格高騰を抑える政策を打ち出してからは、とたんに資金不足に苦しみ、この8月31日にはデフォルト(債務不履行)に陥る危険があると警告したので、株価は下落した。また、資金繰りの悪化のため取引相手への支払いも滞る始末となっている。

不動産の資金繰りがつかなくなって、危機に陥っているのは恒大だけではない。中国政府の対応しだいによっては、さらなるデフォルト危機の拡大が現実のものになるだろう。中国は社会主義国で独裁国だからバブル崩壊はないといわれてきたが、もちろん、そんなことはあり得ない。今度の危機も振り返れば、これまでのバブル経済の繰り返しなのだ。

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ROUTERSより:中国恒大の債券は下落した


ただし、政府が独裁的であるために、不動産市場で小さなバブルが崩壊しても、迅速に対策が取られて回復が早いという側面はあった。これまでも不動産バブル崩壊に近い状況は何度もあったが、そのたびに金融緩和と財政出動によって支えるということをを繰り返してきたわけである。そして、そのため、中国経済は不動産市場の拡大とその維持が運営の中心になるという、独特の構造をもつようになっていた。

たとえば、ウォールストリート紙9月7日付によれば、建設資材や住宅設備機器などの関連事業を含めて、不動産セクターは全体で中国経済の16.4%を占めるまでにいたった。とくに、大都市の住宅市場は長い間、景気後退のさいの底上げのテコとして作用し、中国経済の引き締めと緩和のサイクルを作り出してきたのだという。

それだけではない。不動産セクターには政府の資金が豊富に流れ込み、その資金を用いて住宅を造成するだけでなく、多くの巨大不動産企業が投資家目当ての債券を発行するようになった。そして、その収入がさらに不動産セクターの拡大を生み出していくという、無限の拡大幻想を生み出すことともなった。

この無限拡大のなかで、逆に、政府の財政もこのサイクルのなかに組み込まれていった。同紙によれば、2020年の地方政府の歳入に占める割合は30.8%に上っていたという。中国において不動産セクターというのは、経済全体のかなりの割合を占めているので、このセクターに大きな衝撃が生まれると、経済全体が動揺することになりやすい体質になってしまっていた。

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ROUTERSより


ところが、あまりの不動産バブルにより住宅価格が高騰してしまい、国民の不満も高まったことを背景に、習近平の号令による不動産政策の見直しが始まったことが、大きな変化のきっかけとなった。昨年の夏ころから、政府の強い指導のもとで、不動産デベロッパーへの規制が強まり、住宅価格の高騰を抑えるために資金を絞る政策が、採用されるようになったわけである。

なぜ、こんな危険なことを性急に行ったのかは、よく分からない。たとえ、住宅価格の高騰を抑えるにしても、少しずつ様子を見ながらにしようと思うのがふつうだろう。しかし、1989年から1990年にかけての日本を振り返っても、何かをきっかけに政府が強力な規制を断行してしまうのは、けっして珍しいことではない。

いまはまだ、恒大集団の危機という現象だけにとどまっているようだが、次々に類似の事態が発覚する可能性は充分に高いと思われる。2008年のリーマンショックにおいても、最初はヨーロッパや英国の金融機関の破綻が起こってから、住宅ローン担保証券だけでなく、他の多くの金融商品の問題が明らかとなり、世界に危機が拡大していったのである。

こうした事態が起こるさいには、必ず、「それは以前の事件とは性格が異なるから、いまのブームは崩壊しない」という論者が出てくる。今回の場合も同じで、まずは、先ほど述べたように「中国は社会主義国だから日本の場合とは違う」という論理で、不動産バブル崩壊を否定しようとするわけである。

しかし、思い出してよいのは、日本の不動産バブル崩壊も「日本は大蔵省がずるいことをしてバブル崩壊を阻止してしまう」という説が、まことしやかに欧米に流れていたことである。なかでも、ウォルフレンというオランダ人の日本政治・経済研究者は著作のなかで「日本のバブルは崩壊しない」と断言すらしていた。しかし、その予言は残念ながら間違っていたわけである。

さらに、中国の経済バブルは崩壊しないという説の理由のひとつに、日本のバブルが崩壊するさいには、株式が下落すると同時に不動産も下落しているが、中国の場合は不動産だけが下落して株式は下落していないというのがある。しかし、これは中国の場合には不動産投資が政府の政策によって困難になったので、資金を株式に移したというよくある事態であって、それが中国経済の永遠の繁栄を保証するわけではない。

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CNN BUSUNESSより:中国恒大集団ビル前


では、このとき日本はなぜ不動産も株式も両方が下落したのだろうか。これは1990年のバブル崩壊があって後にさまざま議論されたことだが、世界の資金の流れが冷戦終結によって大きく変わってしまったという説が有力だった。つまり、それまでバブルだった日本の不動産および株式市場に資金が流入していたが、株式下落が始まると同時に、投資対象が全面的に東欧や旧ソ連に移っていき、不動産の下落も大きくなったというのである。

今回の中国の不動産バブルでは、これと同じようなことが起きないだろうか。冷戦終結というようなダイナミックな変化はそうあるものではないが、アメリカのFRBがいまインフレを巡って、金利の引き上げや資産の買い取り停止を検討中である。フィナンシャル・タイムズ9月10日付によれば、エコノミストたちの予想では、2022年にFRB金利引き上げが行われる可能性がいちばん高いという。

来年になるかどうかは分からないが、中国の不動産バブルが崩壊するなかで、アメリカの金利が大きく引き上げられるようなことがあれば、世界の資金はむしろアメリカに流れやすくなる。そのときに、中国政府が強力な防衛的措置を講じないかぎり、中国からの資金の流出がさらに大きくなり、バブルの崩壊も巨大になる事態も考えられるだろう。

 

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