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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国の不良債権が姿を現し始めた;氷山の一角でまだ序の口でもすごい

中国恒大集団の経営危機に端を発した、中国の不動産バブル崩壊は、ここにきて次第にその実態をあらわにしつつある。恒大が一部の負債利子を払ったことで、一時は鎮静化したような印象を与えた負債問題が、恐るべき数字として姿を見せ始めているのだ。バブル崩壊後の負債は、初めはほんの一部が分かり、それからおぞましい全体が明らかになる。そのことを念頭において、以下のデータをご覧いただきたい。

経済誌ジ・エコノミスト電子版11月8日付は「中国政府はいかがわしい地方銀行を除去しようとしている」を掲載している。最近あきらかになった不動産バブル崩壊をめぐる事実と、S&Pグローバル社が発表した、地域ごとの「不良債権」と「要注意債権」のデータを用いて、まだ氷山の一角といえる崩壊初期の「こげつき」を提示している。

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まず、S&Pグローバルのデーターとそれに基づく分析からみてみよう。「格付会社S&Pグローバルによれば、中国の東北部においては、大都市と郊外におけるローンの8%近くが不良債権あるいは要注意債権とみなされる。たとえば、いまのところ中国の東部における同様の銀行における債権の合計は、3%ですんでいる(のに比べてきわめて大きい)。東北部は民間の貸し手が多く、ことに遼寧省では15の商業銀行のうち8つまでが(純粋な)民間銀行なのである」。

これだけではピンとこないかもしれないが、こうした「民間銀行」こそが、ルーズで違法も気にかけないような「不正融資の巣窟」になってきたといえば、日本の90年代やアメリカの80年代における不良債権危機を思い出して、ある程度の想像がつくかもしれない。こうした不動産投資に融資してきた民間銀行の株式は、その多くが不動産会社を含む民間の投資家に売られてきた。こうした構造が成立していれば、銀行の融資と投資家の投資は利益相反になってしまう危険性が極めて高いはずである。

分かりやすい例が、やはり恒大集団と盛京銀行との関係だろう。「もっとも目立つ赤い旗は恒大集団が掲げている。この破綻寸前の不動産会社は東北部の遼寧省で融資を続けている盛京銀行の株式の36%を保有してきた。恒大集団は盛京銀行を支配して、約1兆元(1億5600万ドル)の資産を不正な目的に使い、1億元を関連当事者に融通したことを、当局はつかんでいるといわれる」。

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こうした恐るべき「腐敗地帯」となってしまった遼寧省は、「134の都市銀行と1400の正体不明の地方銀行がひしめいており、90兆元つまり14兆ドルの融資を行い、中国全体の商業銀行セクターの32%を占めていると思われる。これはほぼ英国全体での銀行システムの資産量に匹敵する」。こうした事態は、もちろん他地域に比べて群を抜いた現象だが、グラフを見ていただければ、けっして遼寧省にとどまるものではないことが分かる。

もちろん、中国政府はこうした事態からの脱却を図るべくさまざまな制度改革や規制強化を進めようとしている。「問題になる株式支配」についても調査を行って、過剰な支配は起こらないように指導するためのルールを導入している。また、民間資本が多くなった銀行については国家資本がバックアップしている巨大銀行の傘下に入れるようなことを実行しつつあるらしい。しかし、ジ・エコノミストの言うように「そうした規制強化は時間が必要だし、預金者たちの銀行への信頼を傷つけないようにしなければならない」。

これまでも、日本に限らず、急激な経済成長をとげた国では、かならず不動産バブル崩壊とそれに付随する不良債権の山を処理しなければならなかった。中国政府はこれからどうするのか。多くの参考にすべき歴史的事例はあるが、他国の歴史から学んだ国がほとんどさないことも確かなのである。