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東谷暁による「事件」に対する解釈論

東ヨーロッパでコロナによる死者が急増;その理由はデルタ株だけではない

ヨーロッパでは新型コロナの感染が急激に拡大し、多くの死者を生み出している。ドイツについては最近のブログで書いたし、ニュースでも頻繁に報じられているから、もはや周知のことといってよいだろう。その理由は、デルタ型への移行が大きいというのも間違いではないが、東ヨーロッパの場合、これに加えてもうひとつ、あるいはふたつの、大きな原因があること明らかになりつつある。

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このグラフは10万人あたりのコロナ入院者数


まず、英経済誌ジ・エコノミスト(同誌の研究部門は膨大なコロナに関するデータを集め分析を続けて来た)が示す、東ヨーロッパの悲惨なデータから見てみよう。11月8日に確認された100万人あたりの新規死者数は、たとえば、ブルガリア22.8人、ルーマニア21.8人、で、3.0人にとどまっているEUを大きく上回っている(日本の生の数値に当てはめるには、これを123倍していただきたい)。

こうした死者の増加が見られる国に共通しているのは、コロナワクチン接種率の低さだ。たとえばブルガリアは23%、ルーマニアでも34%と極めて低く、ラトビアはようやく57%に達したが、1カ月前には極めて低い数値であり、EUの66%と比べてかなり見劣りする値である。東欧の場合には、こうしたワクチン接種率の低さがコロナによる死亡率を挙げていることは明らかだろう。

では、このような事態が何から生じているかといえば、ワクチン接種がなかなか行き渡らないためだと考えるのが普通だろう。しかし、ジ・エコノミストはそうではないという。「政府はワクチンの準備は何とかやっているのだが、反ワクチンの声がかまびすしいため、政府と医療従事者への不信感が高まってしまっているのである」。

たとえば、ある調査では政府への信頼は、ブルガリアクロアチアが22%で、ラトビアが26%、ルーマニアでも31%に過ぎない。また、医療従事者に対する信頼度は、ブルガリア34%、クロアチア32%、ラトビア31%、そしてルーマニア40%と、かなり寒々とした数値である。

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同誌は、夏の間には低かった国々がここにきて急激に上昇しているのはアイロニーと言えると述べている。その意味は、デルタ株が蔓延してきたことを伝えようとしても、政府と医療従事者に信頼感がなければ、夏は大丈夫でもいまは危険だというメッセージが、十分に伝わらないということである。

ルーマニアシンクタンクで情報収集に従事するオアナ・ポプチェスクによれば、国民のワクチン接種への熱意が生まれないのは、権威筋がこれまで国民の健康に対して無関心だったことの反映だという。「30年間、責任を放棄しておいて、いまになって急に何かをいっても、疑わしいものだと受け止められるのは当たり前でしょう」。

日本では新型コロナワクチンの接種率は、いまや世界でもトップクラスに達した。その勢いに乗じてというわけではないだろうが、子宮頚癌ワクチンについても厚労省は推奨を復活させるといっているようだ。いちど失われたワクチンへの信頼を取り戻すのは難しいが、何とかうまくやって欲しいと思う。それにはまず政府と厚労省の信頼を取り戻すことが必要だというのは、いまの東欧のワクチン事情を見なくとも明らかだろう。