すでに製薬メーカーが開発中のオミクロン専用ワクチンに、アメリカの保健当局が待ったをかけている。専用ワクチンは必要ないというわけである。これが果たして純粋に医学的および免疫学的な議論と言えるのかを含めて、論争に発展しつつある。
ウォールストリート紙1月14日付は「ワクチン製造会社が開発中のオミクロン・ターゲットのワクチンに保健当局は必要ないのではないかと発言」を掲載して、この論争の概要を伝えている。FDAのワクチン担当ピーター・マークスは「われわれがオミクロン専用ワクチンを手にいれたときには、すでにオミクロンの流行は終わっているかもしれない」。
いっぽう、ワクチン製造業者としては今後の経営上の問題からも、次のワクチンを作りたいのは当然だろう。ファイザーCEOアルバート・ブーラは、従来の変異株にも対応できる、オミクロン・ターゲット・ワクチンを研究中で、3月には申請を行うと公開の会議のなかで発言して注目された。
さらに、モデルナのステファン・バンセルCEOは、今年の秋には同社製の第3回接種がせ必要になると思われるが、そのさいにはオミクロン・ターゲットあるいは複数の変異株に有効なワクチンにできる計画だと、これもまた公開の会議で発言している。こうした製造業者の姿勢は、ビジネスとしては当然だが、その背景にはオミクロン株が既成のワクチンを2回接種あるいは3回接種した人でもブレークスルー感染していることが挙げられる。
こうした構図には、行政的な組織的限界とビジネスとしての先取りが絡まっているわけで、必ずしも医学的あるいは免疫学的な見地からだけの発想ではないことが気になる。しかし、すでに新型コロナワクチンは、世界政治的、世界経済的なアイテムとなっており、アメリカだけの国内事情で決められるものではないだろう。
予想されるように、WHOの専門家グループは、すでに1月11日に、オミクロンなどの変異株による感染を十分に防げるようなワクチンのアップデートが必要になるとの見解を示している。また、オミクロン株の遺伝子配列からの研究も進んでいて、専門家たちからはオミクロン専用ワクチンが必要だとの声が多くでている。
すでに「新型コロナの第6波に備える(9)オミクロン株の専用ワクチンが必要だ」で述べておいたように、オランダの研究グループは、オミクロン株がこれまでの新型コロナウイルスと性格が大きく異なることを根拠に、オミクロン・ターゲットのワクチンが必要だと主張している。
さらには、インフルエンザについてはWHOが年に2回ワクチンのアップデートを勧告するように、将来的には新型コロナワクチンも、同様の仕組みが必要だと論じる専門家もいる。たしかに、オミクロン株の流行そのものは終わるだろう。しかし、その先も考えておかなくてはならない。
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