HatsugenToday

東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国が急激に路線を変更した!;平等よりもパイを大きくするのが最優先に

中国が政策を大きく転換しようとしている。これまで行ってきた「共同富裕」に基づく財界への圧力を緩和し、経済成長を最優先に押し出し、コロナ禍による危機状態を脱却しようと考えているようだ。習近平は、1月17日に開催された、オンラインでの世界経済フォーラムダボス会議)準備会合でも、次のように発言して世界に衝撃を与えている。

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「共同富裕によって我々が望むのは平等主義ではない。我々はまずパイをより大きくし、それから妥当な手続きによって、適切に分け合うのである。巨大な波がすべての船を持ち上げるように、すべての国民が発展から公正な分け前を得ることになる。そして発展は国民すべてに、本質的で公平な利益をもたらす」(フィナンシャル・タイムズ1月18日付)

以前とそれほど変わりないようにも聞こえるが、わざわざこうした方針を述べるときには、大きく変更する合図と考えていいだろう。「平等ではなくて、まずパイを大きくする」これは毛沢東の「共同富裕」ではなく、鄧小平の「豊かになれる者から豊かになる」に戻ることを宣言したも同然だろう。

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ウォールストリート紙1月17日付も「勢いに陰りが生じた中国は一転緩和に転じる」を掲載して、大きく路線を変更したことを伝えている。「いまや中国の指導者たちは、一転して経済の下支えを試みるために必死になっている。月曜日(17日)に公表された昨年第4四半期のGDPは前年同期比4%増でしかなく、コロナ禍が始まって以来の低さだった」。

もちろん、2021年の経済成長は8.1%を達成して世界第2位の経済国の存在感を見せたかも知れない。しかし、その最後の第4四半期が4.0%と「(エコノミストたちが)予想していたのよりはよかったが、中国の指導者たちが期待していたものよりは悪かった」(ジ・エコノミスト誌1月17日号)ことが、まずパイを大きくする路線への切っ掛けとなった。しかし、こんな急激で大きな路線変更が、はたしてうまくいくのだろうか。

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The Economistより:急速な経済の落ち込みが北京を焦らせている


このジ・エコノミスト誌に掲載の「中国経済が減速したので、政治家たちは回復に乗り出した」は、意外にも楽観的に見ている。同誌はたいがいは皮肉な見方をするのだが、このまま中国経済が減速していっては、世界経済が持たないので、ともかく歓迎するということだろう。1月17日に中国の人民銀行は1年ローンの金利を2.95%から2.85%に下げた。また、7日間金利も同じ幅で下げられたが、これは先月に行った準備率の引き下げに準ずるものだったという。

モルガン・スタンレーのアナリストによれば、政府による今年の成長目標(5%)を達成できるかについては、最も重要な不動産市場がソフトランディングできれば、比較的楽観的だという。……しかし、中国の支配者たちの関心事は経済の安定であるにもかかわらず、なおも不動産市場を刺激しすぎることで、投機的なバブルになるのを心配している。北京政府は、地方政府に対して、まあ充分に、ただし過ぎないように(緩和しろ)と指導しているという」(同誌)

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もちろん、広い世界には楽観的でない見方もある。ドイツのフランクフルター紙1月17日付に上海在住の経済コメンテーターが、いささか古典的な視点から「計画経済の限界」というタイトルで懐疑的に論じている。「アメリカのような民間企業とは異なり、中国の国家コンツェルンは、多くの橋をどこかに架けることをしない。そのため、経済の(数字上の)成果は達成できても、常には(質的に)価値あるものを得ることができない」。

なんだかやたらに抽象的だが、論じているのはハイテクの分野についてで、せっかくいくつもの有望な企業が育っていたのに、途中で中国政府は強権によって「ひっくりかえしてしまった」。そのため、健全な発達が阻害されてしまっている。「国家権力はつねにしばしば経済的現実を突き壊してしまう」というわけである。

こうした根本的な国家資本主義の欠陥が、今回の中国経済の危機の中で露呈するのかはまだわからない。論者によっては、いまや世界中がこうした国家資本主義もしくは広義の社会主義になっていることを肯定している人もいる。おそらく、この傾向が「歴史」となっていくかは、いまの中国がひとつの答えを出すことになるだろう。

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いまの中国に関するかぎり、まずは不動産バブル崩壊をどうするのか、コロナ禍をどのように乗り切るのかが当面の問題だろう。いずれの場合も、おそらく冬季オリンピックが終わった直後に、問題は顕在化する。

恒大集団に象徴される不動産バブルは決して短期で生じた問題ではない。また、コロナ禍は「ゼロ・コロナ」政策が失敗したとなれば、強行してきた中国政府の信認が大きく傷つくことになる。それは世界中の「国家資本主義」あるいは「市場的社会主義」への移行が、転機を迎えるときかもしれない。