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東谷暁による「事件」に対する解釈論

スーパー免疫はどれくらい神話でないか;ハイブリッド免疫を正しく理解する

これまでワクチンの接種を何回か受けていて、それにオミクロン株に感染すると、きわめて強い抗体ができる。こうした研究が南アフリカと米国オレゴン健康科学大学(OHSU)から発表され、「スーパー免疫」と呼ばれるようになっている。もちろん、いずれの研究もちゃんとした研究者によるものだが、いくつかの疑問点や、積極的に活用するにはリスクも指摘されている。

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今回は『フォーチュン』誌電子版1月28日付にメーガン・レオンハードがレポートした記事「コロナの『スーパー免疫』は現実になるかもしれない:それはどう機能するのか」から、この新しい説について再度紹介しておくことにしたい。すでに2度ほど触れているので、そちらも読んでいただくと理解しやすいだろう(文末に2つリンクがあります)。

まず、前出のOHSUの研究者で論文の共著者フィカドゥ・タフェッセの見解だが、この「スーパー免疫」は「コロナに感染しようとワクチンを接種しようと、いずれでも違いがなくなるということです。つまり、ワクチンを接種していれば、それからブレイクスルー感染すればいいのです」という。

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OHSUの論文に掲載された図版


この「スーパー免疫」はOHSUの場合、今のところ104人の患者を対象にした研究で見られた現象だが、同じことが南アフリカでも同様の現象が観察されているという。ただし、免疫学者のジェシア・ジャストマンは、「この2つの研究(南アフリカオレゴンの)は、私にはうなづけますが、これらが広く受け入れられている、というまでにはまだまだ時間が必要です」と語っている。

テキサス大学のマクガヴァン医療スクールのルイス・オストロスキーは、ワクチンと感染の両方によって免疫が強化される例を発見したことは評価しつつも、「自然感染のお陰で免疫が、人によっては、また、場合によっては強化されるということだが、それは継続性があるとはいえない」と指摘する。「われわれ研究者は、特定の新型コロナ変異株に感染しても、ある人たちには免疫が出来なかったり、長続きしなかったりする例を(たくさん)みてきたんです」。

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「われわれ研究者は、オミクロン株で起こっていることに、複雑な気持ちを持っています。というのも、きわめて多くの人がオミクロンに感染して、そのなかには病院に入った人もいるし、また亡くなった人もいる。しかし、そのことが集団免疫をつくりあげつつあるわけですから」

しかし、メイヨー・クリニックによれば、オミクロン株で集団免疫が形成されるためには、ざっと計算して94%の人がオミクロン株に感染しなければならない。つまり、ほとんどの人が感染することが条件なのだ(おそらく、感染率が高いためだと思われる)。専門家のなかには、いまやアメリカはこの集団免疫を形成しつつあると信じている人がいるが、別の専門家はそうなるまでには、いまの状況がそのまま続くとは思えないと述べている。つまり、ほとんどの人が感染して集団免疫が出来る前に、別の変異株が登場するなど、状況が変わってしまうというわけである。

さらに、ワクチンを接種した人がさらにオミクロン株に感染して「ハイブリッド免疫」を得るには、ひとつの大きな関門がある。すぐに分かることだが、オミクロン株に感染すれば、それなりの苦しみを受ける人たちが、かなりいるということだ。少なくとも「高齢者や既往症のある人」たちは、最悪亡くなるリスクも覚悟しなければならない。もちろん、若者でも人によってはかなり苦しむケースもあるだろう。

前出のジャストマンは「その『スーパー免疫』を個人的に得るには、ブレークスルー感染を体験しなければならない。それは実際かなりのリスクであり、特に高齢者や既往症のある人には危険です」と指摘している。「たとえ大部分の人がブレークスルー感染を生き延びたとしても、なかにはきつい症状や後遺症で苦しむ人が出てくるのです」。

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オレゴンのOHSUの論文共著者たちは、このスーパー免疫がオミクロン株だけでなく、これからの生まれてくる新しい変異株でも形成されるとみているようだ。しかし、これまでの新型コロナ変異株の発生経緯を振り返ると、その保証はあるのかどうか首をかしげる人は多いだろう。前出のオストロスキーが述べている。

「これからの変異株も同様(ハイブリッド免疫が形成される)であればいいと思います。しかし、ハイブリッド免疫を得るためにだけ、意図的にオミクロン株に感染するべきではありません。それはあまりにも危険です。なんといっても、オミクロン株による症状は死をもたらす病気です。そもそも、その人が感染しても大丈夫だという保証は、どこにもないのですから」

はたして、こうしたスーパー免疫現象が、ハイブリッドな感染で常に生じるのかどうかも、まだ明確にされていない。そして、たとえそれが本当だとしても、気軽に感染してみるというわけにはいかない。重症化や死亡の確率が低いとはいえ、数が圧倒的に多ければ重症者も死者もそれなりに多くなるのだ。

付け加えておくと、OHSUの論文「新型コロナワクチン接種の前でも後でも、感染すると体液免疫を強化に導き、抗体は変異株を有効に制圧する」では、「スーパー免疫」という言葉は使われておらず、「ハイブリッド免疫」と記述している。スーパー免疫と報道されてしまったために、その言葉のイメージが独り歩きして、楽観的な報道が増えた側面もあるようだ。ちなみに、アメリカではオミクロン株で亡くなる人の数が、デルタ株で亡くなる人の数をすでに超えている。

 

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