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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプの勢いに陰りが見えた?;次期米大統領の最有力候補は変わったのか

このままいくと、2024年の米大統領選では、トランプが勝利するのではないかといわれている。1年前の議会襲撃事件についての責任を追及するマスコミは多いが、そのいっぽうで共和党はトランプ党になったといわれるほど、トランプ支持者が多いからである。とはいえ、その傾向が少し変わってきたという報道もアメリカで出始めている。

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そこで英経済誌ジ・エコノミスト2月12日号が「ドナルド・トランプ共和党投票者を失いつつあるのか」と題した短い記事を掲載した。アメリカのメディアや世論調査の動向を分かりやすくコンパクトにまとめたものだが、ここにはトランプ没落への期待と同時に、トランプ復活に対する恐怖もにじみ出ているように思われる。

ともかく、内容の一部を簡単に紹介してみよう。先週(2月7日に始まる週)、共和党国家委員会は、同党のトランプ批判派2人の議員を、米議会を襲った人たちの調査に協力したとして譴責処分にした。ところが、この処置に対して共和党上院のリーダーであるミッチ・マコーネル議員が2月8日、反対ともとれる発言をした。「去年の1月6日の事件を合法的な選挙によって行なわれる政権の移行を阻止しようとした暴力的な反乱」と呼んだというのである。

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The Economistより:デサンティス候補は健闘している?


また、トランプ政権の副大統領だったマイク・ペンスは、以前の「ボス」(トランプ)が主張している「不正工作された選挙」という主張を、「トランプ前大統領は選挙の結果をひっくり返す権利が自分にはあると発言したと聞いている。しかし、彼は間違っている。端的に言って、たった一人の人間がアメリカの大統領を決めることが出来るという考えほど、非アメリカ的なものはない」と批判した。これは日本でも報じられた。

ジ・エコノミストはさらにアメリカのメディアから、さまざまなデータを列挙している。たとえば、ニューヨークタイムズ紙によれば、ミシガン州で再選しようとしている共和党のフレッド・アプトン下院議員(トランプを批判している)は、支持者の寄付を72万6000ドルまで積み上げた。しかし、トランプが推している同じ共和党対立候補ティーブ・カラは13万4000ドルにしかなっていない。つまり、トランプの威光に陰りがみられるというのだ。

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また、NBCニュースの調査によれば、共和党員のトランプ支持者は2020年10月には54%に達し、いっぽう共和党そのものを支持すると答えた人は38%になっていた。ところが、現在、56%の共和党員が共和党そのものを支持すると答え、トランプを支持すると答えたのは36%に落ちてしまっているという。

さらに、共和党系列の調査会社が発表したデータによれば、フロリダ州知事のロン・デサンティスは2024年の大統領選に出馬予定だが、いま健闘している。すべての共和党員からの集計ではトランプ支持が57%、デサンティスは32%。これじゃ勝負にならないじゃないかと思うのだが、この2人についてよく知っている共和党員からのデータでは、「トランプのリードは25ポイントから16ポイントに落ちる」。(つまり、トランプ52%でデサンティスが36%とかになるということか)。

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The Lineより:掛金トランプ圧勝、バイデンがその次(以下同様)


もちろん、ジ・エコノミスト誌はトランプが没落していると結論付けてはいないが、「それはゆっくりとだが、人びとの態度が変わりつつある」と述べている。しかし、公平にいって、せいぜい、いまのところトランプ優位は圧倒的だが、いくつかの新しい兆しもほの見えているというのが、妥当といったところだろう。ジ・エコノミスト誌はトランプを激しく批判してきたから、ここらへんに願望がチェックなしに現れているといってよい。

もちろん、私もトランプが復活して、ふたたびディールによる外交を繰り返されたら、とんでもないことになるだろうと思う。すでにウクライナ問題はずっと難しくなっているし、また、台湾問題も緊迫度がはるかに高まっている。アメリカの金融バブルは崩壊直前であり、日本との経済協定についても、一方的な押し付けを再開するだろう。たとえ提起した問題に見るべきものがあっても、そこに思いつき以上のものはない。その意味で、私はトランプを、新しい時代の象徴のように論じる人たちの迂闊さには批判的だった。さらに、日本人なのにトランプに同調して「前回の大統領選挙は民主党によるフェイクだった」と主張している評論家は、異論を振り回して注目を集めることを狙う、ただの「煽り屋」だと思っている。

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とはいえ、いまのアメリカが正常でまともな政治が展開しているとはとても思えない。その理由はたくさんあるが、ひとつだけをあげれば「次世代の大統領がいまもまったく予想がつかない」ということが最大の懸念の理由である。ためしに、やや煽情的だが、アメリカで公開されている、大統領予測掛金サイトを垣間見てみよう。これは大統領に相応しいと考える政治家に掛金をかけるサイトだが、トランプが圧倒的に1位で、共和党でもトランプ、そして民主党はバイデンが1位という、かなり悲惨な事態が浮かび上がる。

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よくみれば、民主党の次期大統領候補でアメリカ初の女性大統領と目されていたカマラ・ハリスなどは、バイデンの後塵を拝しているし、民主党が当選時には80歳を超えてしまうバイデンがトップというのも、なんの将来の展望もない今のアメリカが浮かびあがるというしかない。「こんなサイトはお遊びじゃないか」という人もいるだろう。それはその通りかもしれない。しかし、現実にトランプやバイデン以外に、もっと若くて輪郭のはっきりした大統領候補が出てきていないということも、たしかなのだ。こうした呆れた事態こそ、世界は憂慮せざるをえないのである。