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東谷暁による「事件」に対する解釈論

感染爆発の上海で何が起こっているか;「コロナ・ゼロ」への固執がさらに危機を生み出す

上海での2地域別の2段階ロックダウンは、先行した浦東地区での期限をさらに延長して継続されることになり、明らかに事態は深刻化している。4月3日に発表された同市での新規感染者は症状のある者が438名、症状がみられない者が7788人で、合計8226人に達した。中国全土では新規感染者1万3146人で、ロックダウン対象人口はすでに約3000万人に達しているという。

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もちろん、これは欧米諸国と比べれば桁数が違っている。中国の人口が14億であることを考慮すれば、100万人あたりの数値は他国と比べて微々たるものといえるかもしれない。また、東京より2倍の人口をもつ上海で、8000人程度の新規感染なら問題にならないじゃないかと思う人もいるだろう。しかし、この規模の感染爆発が、北京政府の「ゼロ・コロナ」政策への固執にもかかわらず、香港や深圳をへて中国最大で経済の中心である上海に及んだことが、経済的にも政治的にも大きな衝撃となっている。

「上海は北京政府の『ダイナミック・ゼロ』と称されるコロナ対策に従って、市中を流れる川の両岸に分けて2地域2段階4日ずつのロックダウンを行なっていた。しかし、感染力の高いオミクロン株の感染数が急増したことによって、当局は金融街を含む浦東地区のロックダウン期間を、延長することになった」(フィナンシャルタイムズ紙4月3日付)

上海の混乱ぶりで特に注目されているのは、このロックダウンのなかで親が隔離されることで、孤立した子供たちが増えていることだ。同市の担当部署の人間によれば「感染して隔離センターに送り込まれた両親の子供たちが、感染していないので自宅にとどまるように命じられて、孤立してしまっていることが分かった」と認めている。(同紙ではないが、この隔離センターの待遇や人間関係がひどいという指摘もある)

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The Gardianより;中国政府は隔離施設の拡張を叫んでいる


また、上海に限らず中国の場合に憂慮されるのは、高齢者のワクチン接種率が低いことだ。「世界の他の国に比べてはるかに低い感染率ではあるが、上海での感染爆発は中国国内のウイルスを消滅させ、経済への影響を阻止しようとしている北京政府にとって、きわめて大きな脅威となっている。高齢者のワクチン接種率の低さと、これまでのコロナ感染の波にさらされていないために、いまのような感染爆発が続けば、高い死亡率を生み出してしまう危険がある」(同)。

たとえば日本では、3月31日現在で1回目ワクチン終了者が81.0%、2回目が79.5%、さらに3回目も高齢者を中心に41.5%に達している。それはワクチンへの依存をかなり重視したコロナ戦略をとってきたからで、感染しても重症化や死亡に至る確率は低い。しかし、中国の「ゼロ・コロナ」のように隔離やロックダウンがコロナ政策の中心を占めており、国内製のワクチンは打っても効果が低く、しかも高齢者の接種率が低い場合には(15%程度だといわれる)、急速な感染爆発に対しての恐怖がまったく異なる。

もちろん、北京政府は事態を重く見て(何よりも政府の面子の問題だと思うが)、4月2日、国務院副総理の孫春蘭を上海に派遣した。しかし、孫副総理が語ったのは「ゼロ・コロナ」政策をあくまでも遂行して、隔離のための施設を拡張することだった。「この2500万人の巨大都市において、中心的な機能を維持しつつ、オミクロン株と闘うことは厳しいが偉大な挑戦なのです」(同)。とはいえ、すでに上海の感染者数は、3月初頭から4月3日までだけで、5万180人に達している。

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The Gardianより:高齢者はワクチン接種率が低い


英紙ザ・ガーディアン4月3日付の記事「上海では何百万もの人をロックダウンしたがコロナの感染は上昇している」では、孫副総理は「人民の基本的な生活と医療のニーズを維持しつつ」、重要産業と諸施設を守り、商業拠点における供給と産業間の結びつきを維持するように、上海市に要求したという。いまの状態で、それがどこまで可能なのかは分からないが、ともかく北京の政治家や官僚が何を重視しているか透けて見える。

同紙は最後に次のように述べている。「中国の国営メディアによるレポートは、中国の習近平主席が、いまの路線を堅持するように指示していると述べている。それはさらなるダメージを回避し、今年11月に予定されている中国共産党大会に向けて、全体の安定を確かなものにするということを意味している」。

【補足】最新のデータでは、中国全土では新規感染者は1万3146人と報じられており、これは上海市吉林省だけで96%を占め、新規感染者が1万人を超えたのは、2020年以来のことだという(TBSNews)。なお、ここで使われている「ゼロ・コロナ」は、本文中にあるように感染者の隔離を中心としてきた中国政府のコロナ政策を意味しており、そのゼロ・コロナに批判的であっても、日本の一部の論者たちが唱えた「集団免疫」を目指す事実上不可能な政策に賛成しているわけではない。