CIAのビル・バーンズ長官のインタビューがフィナンシャルタイムズ紙に掲載されている。もちろん、公的な発言なのでその意味やニュアンスは慎重に配慮されているが、わざわざ言及している内容が、バイデン政権にとって微妙な事項に触れていると思われる。中国の習近平へのウクライナ戦争の影響、台湾問題の行く末、プーチン大統領への感想と、重要なテーマに触れているので、なるだけ正確に、ただし簡単に紹介しておきたい。
フィナンシャルタイムズ5月8日付に掲載された「CIA長官が中国はウクライナ戦争に動揺していると発言」との記事は、ビル・バーンズ長官がすべてホンネを語っているとは限らないにしても、なかなか興味深い。バーンズ長官はもともと外交畑の人物だから、発言は深読みされることを回避したいのか、それとも一定の影響を前提としたものかをあれこれ考えて読むのも、バイデン政権の関心のありかを推測するのに役に立つだろう。
まず、タイトルになっている中国および習近平についてだが、「ロシアのウクライナ攻撃において示した残忍さが、中国にもダメージとなることに動揺しているのは意外なことだった。また、経済的にも戦争が生み出す不確実性によって不安を掻き立てられていることも間違いない」とバーンズ長官は語った。「習近平の最大の関心事は『予測可能性』ということなのだ」というわけである。
中国が台湾に対して、どのように考えているかについても触れている。「中国はプーチンの行動が欧米をさらに接近させてしまったことに慌てており、この事実から台湾問題について何が引き出せるかについて慎重に観察している」という。ただし、バーンズは「そのため台湾問題に関しての計算に影響が出てはいるが、習近平がいずれ台湾に対する支配を確立しようとする意欲が、後退したなどと私は寸時たりとも思わない」ともコメントしている。
興味深いのは、いまメディアに流れている噂の類に触れている箇所で、「アメリカの情報機関がウクライナの攻撃を助けているとか、ロシアの将軍たちを戦場で殺害しているとか、ロシアの旗艦モスクワを沈めたとかの報道の影響を、バイデン政権は軽視している」と語っていることだ。バーンズによれば「それは無責任で、きわめて危険だ。(嘘でも)人びとがまことしやかに語るようになれば実害を生み出す」というわけある。
これはマスコミへの批判であると同時に、ウクライナでの軍事作戦の内情を、不注意にメディアに語ってしまう関係者に対して警告していると思われる。バーンズはそのいっぽうで、ウクライナの情報機関について「彼らの能力を軽くみることは、大きなミスといえる」と語っている。「ウクライナは彼らの国であり、欧米の機関よりずっと多くの情報をもっている」とわざわざ言っているところを見ると、アメリカの情報機関がウクライナで突出した活動をしているとの(批判的な)指摘があるものと思われる。
最後にふたたびプーチンについて感想的なことを述べているが、これもロシア軍の今後を予測するファクターとしてのものだろう。「プーチンは自分が負けるなどとは、まったく思ってもいない。そのため(この戦争や軍隊に対して)求めるレベルがきわめて高くなっている。いまやまさにダブルダウン(もともとはブラックジャックの倍額賭け)状態で、それが彼を煽り立てているのだ」。
プーチンが核兵器を使うかどうかについては、やはり慎重に答えている。「アメリカの情報機関がロシアの核兵器使用計画についての『実物の証拠』を見つけたわけではないが、ロシアの顕示的性向を考慮しても、その可能性を軽く受け止めることはできないと思う」。インタビューへの答えは、全体を通じておおむね慎重なものといえるが、バイデン政権の情報部門がいま何を気にしているかは透けて見える気がする。