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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ロックダウンで中国経済はどこまで落ちたか;ゼロ・コロナ政策がもたらした惨状

中国経済はいったいどれくらいオミクロン株の被害を受けているのか。さまざまな指標を元に推測されてきたが、ここでようやく中国政府当局からデータが発表された。もちろん「官製」ではあるが、それだけでもかなりのことが明らかになる。日常生活必需品はもとより、自動車や装身具などの売れ行きはどうか、また、バブル崩壊で打撃を受けた住宅の売れぐあいはどうか。


英経済紙フィナンシャル・タイムズ5月18日付の「中国のロックダウンは消費を叩き壊し、ゼロ・コロナ政策の被害を見せつけている」は、悲惨な消費後退のほんの一端を紹介してくれている。ざっといえば、自動車や装身具の売れ行きはガタ落ちになり、住宅もかなりの後退を見せている。注目したいのはケータリング・サービスで、興味深い現象がみられる。まず、同紙の概要から読んでみよう。

「5月16日に経済データが発表になったが、まずなにより厳しい規制の深い傷と、消費に対する明瞭なインパクトが見て取れる。消費活動の指標である小売は、4月の前年度比較で11%もの暴落を示し、2020年以来の最悪の下落である。それに比べて工業生産の落ち込みは3%で済んでいる」

ft.comより:住宅販売は42%の下落


中国はこの数年の間、順調に国内の消費が伸びていた。そこで輸出を拡大して経済を拡大する路線から、国内の消費によって経済成長を実現する路線へと方向転換を試みてきた。しかし、その野望もこのゼロ・コロナ政策で夢と消えようとしている。同紙は「この政策の失敗は習近平がこの秋に、中国共産党大会で第3期目の党主席となるため、ゼロ・コロナを最優先課題としたため起こった」と説明している。

コンサルタント会社オックスフォード・エコノミクスのトミー・ウーによれば、「発表になった金融関係のデータを見る限りでは、さまざまな経済刺激策があったにもかかわらず、ローンの伸びは緩慢だ。それは需要が伸びないからで、明らかに中国のビジネスは、より多くのお金の貸し出しを求めていない」とのことである。

特に、不動産市場は苦戦していることが分かるという。政府は先週、住宅ローンの金利を4.6%から4.4%に下げて購買意欲を刺激しようとしている。しかし、4月の住宅販売状況を床面積で1年前と比較すると、なんと、42%もの落ち込みを示し(上図)、これはコロナ・ウイルスが登場してからの2年間で最悪の数値であるという。

中央銀行である人民銀行は金利を下げているが、こうした金融政策は疑問視されている。USB銀行のエコノミストであるカルロス・カサノバは、「人民銀行が金利を下げても、購買者が無視する程度でしかなく、実体経済に刺激にならないと分かれば、こうした金融緩和策をやめてしまうのではないか」と見ている。

ft.comより:ケータリングは激減してしまった


では、小売のほうはどうかといえば、注目すべきはケータリング・サービスで、4月には23%もの下落を示した。そのいっぽうで、食品、飲み物、燃料、薬品などが1年前にくらべて増加していることを考えれば、消費する対象が入れ替わって、しかも、金額的には全体で縮小しているのは明らかだろう。自動車などは31.6%もの下落を見せており、これは小売のなかで最大の下落幅である。

いっぽう、失業率は上昇して4月には6%を超えてしまった。これは2020年以来初めてのことである。政府は付加価値税(まあ、消費税のことか)の年末返還(消費時に消費税を取って、年末に返還する)を発表していて、これは総額で1兆5000億元に上るとされる。しかも、その90%は中小企業が対象になるらしい。さらに、消費刺激策としては、いくつかの地域でクーポン券も配布されている。しかし、前出のウーは、こうした特典政策は、その場での消費にあまり効果を持たないと指摘していいる。

日本経済新聞より:中国の現在の経済指標


「いまのような状況のなかでは、人びとは消費しないもの。コロナに罹るかもしれないという心配があるときには、労働市場も活気がなくなり、したがって、収入の予想額も少なくなるから、政府が何をやったとしても、消費を煽るのは難しい」

ロックダウンが長期続いた上海について、前出のカサノバは述べている。「たとえ上海のロックダウンが緩和されたとしても、消費が回復していくのは6月になってからでしょう。しかし、政府がいかに規制を緩和しても、急速な消費回復はないと思う」。もちろん、中国共産党の幹部たちと、特に習近平にとっては、そんなことは百も承知の上でのゼロ・コロナ政策であり、ロックダウンなのだと思われる。