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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ワクチンがなければコロナ死はどれほど増えていたか;医学専門誌ランセットに発表された新研究

ロシアによるウクライナ侵攻が始まったせいか、コロナ・パンデミックの報道は急速に少なくなっている。これはもちろんコロナ禍が先進国ではおさまりつつあるせいでもあるが、まだまだ油断するわけにはいかない。ヨーロッパでは、オミクロン株BA.5の感染がやや拡大しているし、中国などでは本当に封じ込めが成功したのかもわからない。

 

そもそも、コロナ・ワクチンが、どのような世界的効果をもったのかについても、奇妙なことに曖昧なままにされてしまっている。コロナ禍についてデータと統計的分析を続けて来たジ・エコノミストは、6月24日号に「コロナ・ワクチンでどれほどの人の命が救われたのか」を掲載している。結論からいうと、1年間のコロナ・ワクチン接種によって、世界で1910万人から2040万人の生命が救われたということだ。

The Economistより:赤色が現実、桃色がワクチンで死を回避した数値


この数値を割り出した研究は、オリバー・ワトソン、グレゴリー・バーンズレーたちが、ジ・エコノミストが随時発表してきたデータなどを使って進めてきたが、医学専門誌ランセットに6月23日に発表された。この論文「コロナ・ワクチンの最初の1年での世界的インパクト:数学モデルによる研究」は、ワクチンがなければどうなっていたか、また、ワクチンの世界における分配を変えていれば、どうなっていたかについても考察している。

専門誌ランセットに掲載された論文のグラフ


「この研究が示唆するところによれば、もしワクチンがなかったなら、2021年だけでも実際に亡くなった人のおよそ3倍にあたる死者が出たという。また、ワクチン接種で助かった人たちのうち、680万人から770万人が、貧困国へワクチンを提供するしくみである『コバックス』によって、死から免れたと指摘している」

もちろん、いまもワクチンの不足から、コロナによって多くの人の命が奪われている。約100カ国が、WHOが提示した「2021年末までに40%の人たちにワクチンを接種すること」という目標を達成できなかった。この研究の参加者たちは、「このことによるコスト(死者数)は60万人に達する」と推計している。

「超過死亡」で見た世界の状況:実際のコロナ死は統計の3倍という説もある


もちろん、数学モデルによる研究だから、限界も存在する。たとえば、巨大な中国に関するデータが信用できないものが多く、そのために世界データに歪みが生じているだろう。また、ワクチンがない場合に、政府や国民が行動パターンを変えたら(たとえばロックダウンや自宅待機だけで対応した場合)どうなっていたか、という別のモデルは、今回の研究では試みられていないとジ・エコノミストは指摘している。

しかし、いちばん重要なのは、いまの時点での数値が文句なく巨大なことである。いかに事例が最初は少なかったとはいえ「風邪なみ」と断言したり、まだ副反応の研究が十分に進んでいないことをいいことに、「ワクチンは危険」と煽った論者たちは、どれほど危険で残忍な扇動をしたのかについても、この研究は示唆している。