中国政府は後退する自国経済を、もうどうすることもできなくなっているようだ。まず習近平がいまの政策一般を改めることがないかぎり、大胆な改革案を断行することができないということが基本にある。さらに、改めて注目されているのが、不動産部門のどうしようもない惨状で、何か対策を行うには「もう遅すぎる」との認識が広がっている。
ウォールストリート紙7月29日付は「中国のリーダーたちは経済回復に汗をかいてない」を掲載して、中国指導部が経済成長の急激な低下に、必死に取り組んでいないと指摘している。その理由というのが、第一に、習近平の政治的地位がゆるぎないものであるため、景気刺激をしなくともいまの窮状を乗り切れると踏んでいるからだという。
第二に、習近平がゼロ・コロナ政策を変えようとしていないことから、目標とされてきたGDP成長率5.5%はもう達成できないとの認識が広がって、いまさら焦ってもしかたがないという雰囲気が出来上がっていること。第三に、習近平の「共同富裕」に示された経済の行きすぎ是正や金融の安定化策には逆らう勢力がないこと、などがあげられている。
すべてが習近平の支配が原因だとしているわけだが、政治も経済も今秋の中国共産党大会における習近平の主席再任のために動いてきた幹部たちにすれば、それは疑う余地のないものなのだろう。しかし、もうすこし経済の現実から眺めれば、習近平がどうであろうと、かなり悲惨な状況に陥っているわけで、いまさら慌てても仕方がないという「あきらめ」もあるのではないかと思われる。
そのあきらめの中心が、中国経済の成長を引っ張ってきた不動産部門の崩壊で、7月28日には、中国恒大集団が負債問題解決のプランを発表した。ところが、これがほとんど説得力のないもので、債権者や同集団が建設を中止した住宅の購入者たちを呆れさせている。恒大の売上は1年間で約97%も下落しており(3%の下落ではない)、問題解決を「海外に保有している資産」によって行うというが、その「資産」じたいが価値下落している可能性もある(たぶんそうだろう)。
すでに中国政府は7月27日に、窮地に陥っている何百万もの不動産業を救済するため1兆人民元(1480億ドル)の対策を用意しているとの報道があったが(フィナンシャルタイムズ紙7月28日付)、しかし、これではほとんど効果がないだろうとの声がすぐにあがった(同紙7月29日付「中国の不動産:1500億ドルではこの分野の停滞を救うのに十分ではない」)。
28日付があげているデータを紹介しておくと、中国では住宅建設が決まると、まだ着工する前から購入者を募るため、建設が中断してしまうと多くの購入者が宙ぶらりんの状態におかれてしまう。いま中国全体でみてどんな状態かといえば、売られた住宅に対して完成した住宅は半分程度で(上図)、購買者の多くがローンの不払い運動を始めている。この宙ぶらりん状態は、沿海地方よりも内陸地方のほうがずっと多く(下図)、経済発展も途上にある地域は苦しみも大きいわけである。
中央銀行である中国人民銀行は、年率1.75%という低い金利で約2000億人民元を、国営銀行に貸し出すとの計画を進めているようだが、中国の第2四半期の経済成長が0.4%まで下落したなかで、この金額がどれほどの効果を持つかも、まったく不透明になっている。
この貸出について、中国人民銀行の内部の情報では、中国政府の目論見としては2000億人民元の貸し出しによって5倍のレバレッジが働いて、それで1兆人民元規模の救済策になると考えているらしい。好景気ならともかく、経済成長じたいが急落している状況で、そんなにうまくいくものか、と考えるのが普通の感覚だろう。つまり、いまのところ空しい皮算用だけが、中国政府の対策案なのである。