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東谷暁による「事件」に対する解釈論

習近平の独裁体制確立で株価は下落;日本についても5年後、10年後を考える時だ

中国共産党大会第20回が終わって初めての平日、西側にある証券取引所では中国企業や関連株が下落した。これは習近平が第3期目を独裁的な体制で始めたことに対する、市場の反応だといわれる。つまり、かつてのように中国は、西側の世界の有力な協力者ではなくなり、中国経済もまたアメリカを中心とする世界経済から逸脱していくだろうとの、悲観的な予想のなせる業だというわけである。


習近平によって圧力をかけられ、かつての経営者は排除されてしまったアリババの株価などは、ナスダック・ドラゴン・インデックスで見ると14.4%も下落してしまった。英経済紙フィナンシャルタイムズ10月25日付の「中国の景気は習近平の堅固な権力によって打ち砕かれる」との記事は、アリババの株価は上場価格よりも下落してしまったことを示すグラフを掲げている。

「中国株式は大型ファンドのマネージャーに人気があったが、習近平国家主席中国共産党の第3期目の総書記に選出されたことで、かなりの売りが起こって、ぶち壊されてしまった。この株価の下落によって、ファンド・マネージャーのポートフォリオから何百億ドルもの価値が消えてしまった」


米経済紙ウォールストリート紙10月24日付の「中国の新指導部は西側との関係を変えるだろう」によれば、かつて習近平の再考経済顧問をつとめ、トランプ政権と交渉を行った劉鶴副首相や、中国人民銀行の易綱総裁など、実務能力を備えた国際派の幹部が姿を消してしまった。これは胡錦涛国家主席李克強首相などが一掃されたことと並んで、中国が国際社会から後退し、独裁的国家に傾斜する兆候といえるという。

同紙同日付の「習近平のドリームチームに市場が恐怖するのは当然」との記事は、李克強首相や汪洋全国政治協商会議主席が姿を消してしまい、上海市のトップだった李強が次期首相になることに憤っている。「李強は国家の官僚機構を支配する地位に立つわけだが、彼は上海市新型コロナウイルス感染拡大にともなうロックダウンを失敗させた人物ではなかったのだろうか」。

習近平は党大会の開会式で「私が2012年に総書記になったとき、中国は政治的にも経済的にも危機にあったが、その後の10年で悪化を食い止めることができた」などと演説したが、事情を知っている者には悪い冗談にしか聞こえなかった。これは傍らに座っていた胡錦涛前総書記をあてこすっているわけで、閉会式のときの混乱はこのときの習近平の卑劣な批判が原因ではないかとの説もあるくらいだ。


しかし、データを見れば少なくとも経済的にはまったく逆であることが分かってしまう。胡錦涛時代は投資が拡大してGDP伸び率もなんとか10%前後だったが、習近平時代になってからは投資も低下し、また、GDP伸び率も下落している。もちろん、習近平時代にはコロナ禍があったわけだが、その対処を粗暴な「ゼロ・コロナ」によって切り抜けようとして失敗し、今年の第3四半期などは年率3.9%にまで下落しているのである。

wsj.comより:胡錦涛時代は投資が伸びGDP伸び率も10%前後

 

こうしたデータを見て思うのは、習近平とその周辺の幹部というのは、よっぽど政治抗争に長じているのではないかということだ。すくなくとも、政治抗争で敗北すれば言っていることが正しくても悲惨な目にあうことを、身をもって味わった習近平において、「まず、政治抗争において勝つことだ」という哲学が先行していると想像しても、それほど間違ってはいないだろう。

では、経済的にはどうなのだろうか。いまのところ、10月24日の株価に見られるように、当面の経済が上向くという予想は困難だろう。これからも中国でゼロ・コロナは続くだろうし、習近平の政策に批判的な企業の幹部は排除されてしまう。胡錦涛時代のように新しい起業家が大勢育つ土壌はもはや失われたといってよい。西側の国ですら優秀な官僚が指導すれば経済は立ち直ると思っている論者がいるが、残念ながら経済というのは自由と寛容、さらにいえば欲望と腐敗がなければ繁栄しにくいものなのだ。


習近平はこれから5年どころか10年はいまの独裁的地位を保持すると予想されている。体調を崩さないかぎり、いまの政治的支配をゆるがすのは難しいかもしれない。それはある意味でアメリカにとっては朗報だと言う説もある。経済が停滞すれば中国との摩擦も低下するというわけだ。もちろん、これはご都合主義的な議論で、いまのように中国が独自の経済圏を確立しようとすれば、世界の成長はさらに下がるから、アメリカを中心とする経済圏の成長も停滞する。

ここで少し考えておいてよいのは、では、5年後、10年後の日本はどのような位置づけになるかということである。5年後は政治的にアメリカの属国で、経済的にもアメリカ本位を続けていても何とかなるかもしれない。しかし、10年後、習近平が政治的というよりは体力的に引退を余儀なくされるころ、国際社会における日本の政治と経済の地位はどうだろうか。中国がたとえ経済において停滞を続けることになっても、日本の経済的地位はさらに低くなっている可能性が高い。そしてまた、そのとき政治的にアメリカに依存しようと考えても、この国ですら今のようなパワーは持っていないだろう。

The Economistより:習近平に忠誠を誓った人たちは「ロイヤリスト」と呼ばれる

 

まるで茶番劇のような中国共産党大会を見ていて、呆れたり気の毒に思ったりしたが、習近平の時代が継続することを前提として、これから先の日本を考え始めると、中国の停滞を予想して安穏としているわけにはいかないことが分かる。中国はこれから経済が停滞しても東アジアで動くし、また、万が一、今の停滞を脱出するようなことになれば、それこそ世界的に大きく動くだろう。そのときに、いまの東アジアの構図は日本の望まない方向に大きく変わるはずである。