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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナ戦争 これからの3つのシナリオ:いずれも困難な未来が待っている

ウクライナでの戦争は、ついに年を越してしまったが、これからの展開はどうなるのか。欧米の報道では、ウクライナの「勝利」は目前のようにも思えるが、その「勝利」とは果たして何を意味するのかも、曖昧なままになっている。まずは大雑把に現状を確認して、これからの戦いがどうなるか予想してみよう。

 

「ちょっとした熟練の情報分析家なら、2022年3月の時点で、ウクライナが8カ月以上も独立を保ち、ウクライナ軍がロシア軍に死傷者8万人という損害を与え、黒海を制していたロシア海軍の旗艦が撃沈されるだろうといったら、せせら笑ったことだろう。ウクライナはこうした予想をすべて覆した。とはいえ、冬季を迎えてロシア軍はいまやさらなる動員をかけているのである」

これは英経済紙ジ・エコノミスト11月14日号が掲載した、同誌の軍事担当記者シャーシャンク・ジョシィの記事の冒頭である。すでに1カ月半以上たっているのに、同誌は再び掲載している。再掲する価値がまだあるから、そうしたのだろう。たしかに、シミュレーションに基づくやや大雑把な3つの予測が書かれていて、大雑把であるがゆえに読者が自分で考えてみるには、ありがたい見取り図となっている。


まず、シナリオ1:ロシアが劣勢から反転してついには勝利を得るケース。これは、かなり可能性は低いものと考えているようだ。ロシア軍が冬季の間に戦線を立て直し、兵士を動員して新たに戦闘を開始するというケースである。このとき、アメリカでは共和党の政治力が強くなり、ウクライナへの支援をやめるか減らして、ヨーロッパからの支援も枯渇することが条件となっている。ここでの勝利とは、プーチンのロシアが東部の占領地を確保し、クリミア支配を継続することを意味するだろう。

次に、シナリオ2:両軍とも「千日手」つまり硬直状態に陥ってしまうケース。ロシアは数十万人の若い兵士を動員して攻勢をかけるが、不利な戦局を自国に好転させることができない。いっぽう、局地戦でウクライナはいくつかの勝利を手にするが、ウクライナ軍の損耗率も激しく、小さな勝利を得るために犠牲にする兵士数も多くなってしまう。戦場での勝利を得られないプーチンは、ウクライナのインフラ、特にエネルギー供給網を破壊していくが、ウクライナに対してヨーロッパの支援が、2023年までは続くことになる。このシナリオでは、犠牲が多いにも関わらず、勝利と呼べるような状況は両軍に訪れないわけである。

そして、シナリオ3:これがいちばんウクライナを活気づけるケースだが、同時に最も危険な展開といえる。ウクライナはなんとか戦争のイニシアティブを維持して、ロシア軍に打撃をあたえ続け、ヘルソンから撤退させ、ハイマースなどの射程距離が長い武器でクリミアにも攻撃をしかける。ルハンスクのロシア軍は壊滅して、ウクライナはスベルドネツクを奪還。ロシア軍の損耗が激しくなり、新しい兵士の調達も若者たちの拒否にあう。このとき、勝利とはウクライナが主張する領土から、ロシア軍を駆逐することを意味する。


最後のシナリオでは、春になるとゼレンスキーはウクライナ軍をザポロージアに展開し、夏までには5つの旅団がロシア軍の補給線を寸断して、さらに、クリミア大橋やマリウポリなどを攻略してしまうことになる。このとき、プーチンはこの戦争をやめてしまうか、それとも核兵器を使用するかの選択に迫られる。ゼレンスキーがプーチンを追い詰めていけば、こうした核使用リスクが大きくなるというわけである。

この3つのシナリオで、当面、もっとも起こりそうなのは第2番目のものだろう。この場合には、戦争は2024年までずれ込むことになるが、そうなるとアメリカの大統領選挙の結果いかんでは、ウクライナへの支援が大きな転機を迎えることも、ありうるとされている。たとえば、ドナルド・トランプが大統領に返り咲いたりすれば、アメリカ政府はウクライナへの支援をやめてしまうかもしれない。プーチンにとっては、このシナリオが好ましいことだろう。

また、プーチン核兵器を使用することで、はたして本当に戦局を根本的に転換できるかという疑問も、最近は指摘されるようになってきた。というのも、たとえロシアが核兵器を使うとしても、それは戦術核といわれる小規模の破壊力のもので、これは広島型原爆の十数分の一にすぎないので、被害はあっても追い詰められたロシアが逆転できるような効果はないと言われる。ただし、プーチンが自暴自棄になるケースを考えれば、核兵器使用は十分にあると考える専門家もいて、これはプーチンの性格が大きなファクターになると思われる。