今年の1月22日は、中国の正月「春節」にあたる。習近平はゼロコロナを放棄してからコロナ感染を事実上放置し、春節の人民大量移動もなすがままにした。その結果は悲惨なものになると思われる。この数年の移動制限の反動もあり、今年の春節は例年以上の人の移動が行われた。ということは、コロナ感染もさらに莫大な数になるのではないのか。
しかし、中国政府はこうした事態を予想できないわけではないのに、まともなデータをすべて封印してしまい、コロナによる死亡者を6万人などという、誰も信じられない数値を発表している。これは科学的でないだけでなく、政治的にも長期的影響を考えれば、はなはだしい失敗といえる。ひたすら習近平の当面のメンツを守るための措置を優先するようでは、人民の生命を守ることなどできない。
まず、正しい数値が必要だ。それができなければ、正しい数値を反映した何らかの値だけでもあったほうがいい。外国の人間にとっても、中国と関係するさいの姿勢にかかわる。英経済紙ジ・エコノミスト1月20日号は、中国で最大のサーチエンジン「バイドゥ」を用いて、春節における人の移動の推測値を割り出している。いうまでもなく、それは影絵をみているようなもどかしさがあるが、何もないよりはましである。
The Economistより:春節により激しい人の移動が生じている
バイドゥの人間移動サーチは、グーグルなどと同様に、個人がもっている通信デバイス(GP付きのスマホやパッド)の検索から、人間の動態を計算する。「通信デバイスのアプリは1日で1200億件の位置を把捉し、そのことによって、私たちに中国における人間の移動の鳥観図を見せてくれるのである」。
さて、前口上はこれくらいにして、まず、中国政府が春節における「旅行ラッシュ」期間と呼んでいる、1月7日(中国の旧暦による12月16日)から24日間の、旅行による移動を5年分見てみよう(2023年はまだ途中だが)。ジ・エコノミストが計算してグラフ化したもの(上のグラフ)によると、1月19日で比較した場合、今年の旅行合計数は2022年より24%上昇しており、2021年と比べると117%も高くなっていることが分かる。さらに、コロナ以前の2019年と比べても12%高く、いかに反動が大きいかも推測できる。
また、こうした上昇具合をマッピングした地図(下の地図)で見ると、今年の春節旅行の目的地は重慶や成都の周辺、あるいは中国の西南に位置する四川省が多く、これは多くの出稼ぎ労働者(故郷を離れていた人たち)が、自分の出身地に里帰りしていることが示唆されている。
The Economistより:里帰りによってウイルスは拡散した
興味深いのは、この膨大な移動が今年は、小型の乗用車で道路を走るケースが76%を占めており、これまでの春節の里帰りが公共的交通(鉄道やバス)であったのと大きな対照を見せている。これはいうまでもなく、コロナウイルスの感染を恐れてのことで、中国人民は政府がプロパガンダしている「オミクロン株は風邪なみ」を信じている者など、ほとんどいないことをも示唆している。
The Economicsより;確かにピークは越えた。ただし第1波にすぎない
中国政府は「感染爆発のピークは過ぎた」と発表しているが、これはバイドゥの検索による推論でも、キーワードの「発熱」がすでに昨年12月17日にピークを迎えたことと一致しているので(上のグラフ)、嘘ではなさそうだという。しかし、これからが問題というべきだろう。「旅行が増えればそれだけコロナ感染が増加する。また、春節行事のための目的地までの距離が長ければ長いほど、旅行者たちは自分自身を故郷に運ぶだけでなく、ウイルスも運んでしまう危険性は高まるのである」。つまり、これからの第2波は、欧米で起こったことと同じく、これまで感染者が多くなかった地域で急伸するから、もっと広範囲にわたり、被害も大きくなると思われる。
いま、日本政府はコロナを4月から「2類相当」から「5類」に分類を変えると発表して、さまざまな議論が展開している。あきれるのは、この分類変更によって、死者が減少し、経済が回るようになり、病院の危機状態が解消され、過剰な医療措置が改められると思い込んでいる人が、けっこう多いことだ。しかも、それが与党の政治家に多いというのは、日本国民にとって不幸というしかない。
分類をかえたら感染病が消えるのではない。それは単に別のやり方で対応しなくてはならないというだけのことだ。この5類移行はずいぶんと前から、一部の評論家やコメンテーターたちが主張していたが、いまの時点ですら多くの懸念があるのに、まだ、ワクチン接種が進んでいないうちから言っていたのだから呆れる。なかには一応医師免許をもっている人もいたのだが、この人物はスウェーデン崇拝者で、この医療天国の当局が間違って「集団免疫」が形成されたと発表したとき(そんなことがコロナでは可能でないことは、この時点で分かっていた)、それ見たことかとさらに、スウェーデン方式を振りかざしていたものだ。
すでにスウェーデンについては、世界でも群を抜いた結果を出したと思う人は少なくなったが、最近は感染者がきわめて少なくなったので、一部で再び注目されている。しかし、これは、すでに他のところで述べたように、単に感染者数の調査をやらなくなっただけで、オミクロン株による死者は急伸して、前回のオミクロン株でのピークをすでに超え、さらにデルタ株のさいのピークに迫る勢いだ。
ジョーンズ・ホプキンズ大学が作成したグラフ(上が感染者数、下が死者数)
「コロナは危険な病気」といっていたのに「オミクロン株は風邪」と言い出した中国ほどではないが、スウェーデンの例などは、感染に対する取り組みを変えただけのことで、むしろ、死者数からみた事態は悪化した困った例にすぎない。これほど欺瞞的なものではないにせよ、日本の与党の政治家たちによって行われつつある5類への移行も、しっかりとした準備がなければ、こうしたバカバカしい結果にならないとも限らない。
1月22日の朝日新聞で新型コロナ分科会の会長が「5類になったら、コロナ診療に参入する医療機関が増える、あるいは、感染が下火になったり、死者が減ったりすることはあり得ない」と断言していた。そんなことは、すでに述べたように、素人でも常識で考えれば分かることで、この会長さんにも問題がないわけではない。しかし、わざわざリスクを負ってこんなことを言うところを見ると、今回の5類移行を推進した政治家たちの思い込みとはどのようなものか、間接的に国民に知らせたいのかもしれない。
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