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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ドイツは再び分断するのか?;グラフでウクライナをめぐる国内の亀裂を見る

EUおよびNATOのメンバーのなかで、ウクライナ危機をめぐるドイツの立場は最初から微妙だった。しかし、いまになっても国内の亀裂が大きいというのは、いったいどうしたことだろう。フランクフルター・アルゲマイネ紙が行った世論調査から、ウクライナをめぐる亀裂の現実をグラフで見てみよう。

なぜ、ドイツがいつまでもウクライナへの支援をめぐって煮え切らないのか。また、ロシアに対する態度がどこか曖昧なのか。それを地政学的な議論や経済学的な分析で理解するまえに、ここではまず、フランクフルター・アルゲマイネ紙2月15日付が「ドイツはウクライナを援助したい――しかし、いったいどの程度まで?」という記事で掲載しているグラフを見ることから始めたい。

まず、ドイツ連邦政府ウクライナ危機においてよくやっているか否かを判断してもらった世論調査のグラフである。赤が「あまりよくない」「よくない」の合計、青が「すごくよくやっている」「よくやっている」の合計である。これから見れば、ドイツ国民はある程度評価しているといえるだろう。

ウクライナは(ロシアへの)抵抗をあきらめるべきか」という問いに対しては、ドイツ全体では、「イエス(青)」は、「ノー(赤)」に比べてかなり少ない。ところが、旧西ドイツと旧東ドイツにわけてを見ると、旧西ドイツは「イエス」が圧倒的に少なく「ノー」がかなり多いが、旧東ドイツは「イエス」がかなり多く、「ノー」をずっと上回っている。これらからは、明らかに旧東ドイツがロシアとの戦争継続を、何らかの理由で嫌っていることがわかるだろう。

ここで、国内の政党支持がどう変わってきているかを示すグラフを見てみよう。特徴的なのは前政権の中心だったキリスト教民主同盟(黒)が回復しているのに対し、いまの政権の中心である社会民主党(赤)はずるずると下がって、昨年の終わりころから多少は上昇しているものの、いまひとつ勢いがない。これもウクライナ政策への不満による可能性は大いにある。

では、ドイツは安全保障について、どこと一緒に推進すべきかという世論調査だが、安定して多いのはNATOと答える人で、最近は7割を超えている。それに対してアメリカ合衆国と親密な関係によってと答える人も漸増している。もうひとつの、国家の支出をもっと高めることで安全保障を実現するという傾向も、不安定なところもあるが、かなりの割合に達しているようである。

最後が、ドイツはどこと連携してやっていくのが一番いいのかという問いに対する回答だが、圧倒的に多いのがフランス、次がアメリカ、イタリア、英国と続いている。ポーランドと答えている人も無視できないし、また、これは経済連携ということだろうが、中国もけっこういるのは興味深い。


ここまで見てきて、特に興味深いのは、旧西ドイツと旧東ドイツウクライナ戦争にたいする捉え方だろう。グラフだけから推論するのは危険だが、旧東ドイツの住人は、ロシアに対して戦争の相手として大きな恐怖を持っているか、あるいは地続きの大国との関係をあまり悪くしたくないと思っている可能性があるように見える。

ウクライナの犠牲をこれ以上増やさないため」との説明もあるが、もしそうなら、なぜ東西でこれほど「犠牲」についての判断が違うのか。かつて、旧東ドイツソ連の衛星国だった地域であることも関係あるかもしれない。そして、それらのことが、東西の住民のウクライナ戦争についての認識を大きく隔てている。

また、ウクライナ政策に対して、今の政権に対してそれほど批判的とは思われないのに、政党支持が下がっているのは矛盾しているように思われるが、もちろん、政党支持はウクライナ対策だけが判断の基準ではないからだろう。安全保障一般については、NATOの相互協力やアメリカとの関係を考えるのは当り前だが、自国の財政支出によって強化するという割合が増えている。それが、ウクライナ侵攻以降に急伸しているのは注目してよい現象といえる。ここらへんは日本とは違うようである。