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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナ軍がバフムトから撤退?;それは戦略的移動か、それとも敗走なのか

ウクライナ東部の戦場バフムトから、ウクライナ軍が撤退する瀬戸際にあるとの報道が繰り返されている。まだ、ゼレンスキー大統領は撤退の命令をくだしていないようだが、西側以外の3方向からロシア軍が迫っており、いまや最後の西側の道路も遮断されようとしていると言われる。


ウクライナのゼレンスキー大統領は、くりかえし、バフムトを守る貴重な兵士たちの多くを犠牲にしたくないと語ってきたが、まだ、撤退の命令を出していない。3月6日のステイトメントで、ゼレンスキーの司令本部では、最高司令官が防衛作戦の継続を主張していると報じている」(フィナンシャルタイムズ3月7日付)

同紙によれば、アメリカのオースティン国防相は、3月6日、ヨルダン訪問の移動中に取材を受けて、ウクライナがバフムトから撤退したとしても、それは「この戦争の方向を変える」ものではなく、「もし、バフムト西方にウクライナ軍が移動したとしたら、それは一種の作戦とか戦略的後退だとは思わない」と語っている。

ft.comより:バフムトのウクライナ軍は3方から遮断されている


いまロシア軍は、すでに述べたようにバフムトから西方に伸びている道路を遮断しようと試みている。それはウクライナがバフムトへの補給を行っていた最後のルートであり、いまもキーウからのコントロールを可能にしている。それが消滅すればウクライナ軍は孤立することになり、ウクライナは厳しい状況に直面しようとしている。

「バフムトをめぐる情勢はきわめて厳しい。これまでロシア軍がバフムトの南側に兵力を集中しているようならば、北側に打って出る方法もあるかもしれない」と、キーウにあるシンクタンクである、ウクライナ安全保障協力センターのセリー・クザンは指摘している。

いっぽう、ロイター電子版3月6日付によれば、ロシア軍に参加している民間軍事会社ワグネルの司令官プリゴジンは、いまのロシア軍が優位を続けるには、武器弾薬の追加補給がぜひとも必要であり、もし、それが途絶えるようだと、状況が変わってしまうかもしれないと警告しているとのことである。

ft.comより:ウクライナ東部バフムトの戦い


まだ、状況は流動的とは思われるが、一部の報道、たとえば雑誌フォーヴス電子版などは、先ほどのオースティン国防相のコメントを重視しているのか、これから始まるウクライナの西側への移動は、あくまで戦略的なものだと示唆している。これに誘われてロシア軍がバフムトを占領すれば、情勢は反転するというわけだ。

もちろん、そうしたことも考えられるが、そのためには事実上ロシア側の攻勢を支えているワグネルへの武器弾薬の補給が、どうなるのか注目されるところだろう。敵の補給線を長くするまで後退して、補給線が切れたところで包囲して撃滅するというのは、むしろロシアの伝統的な戦略だが、そうした戦いになるのかどうか。新しい情報が入り次第、追加あるいは別立ての投稿にしてお知らせしたい。

 

【追加:3月7日午前】ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネ3月6日付は「生き残る確率は3対7だ」を掲載して、現地の逼迫した状況とウクライナ政府内での対立を伝えている。まず、キーウ政府内部だが、ほぼフィナンシャル紙と同様だが、政府内の亀裂を推測している。

ウクライナ内のメディアによれば、バフムートの防衛を続けるかどうかについては、軍の内部においても意見の相違が出ているという。バフムートを失うのはあまりに大きな犠牲だと考える者がいるいっぽうで、撤退したほうが別の戦場に兵力を回せると主張するものも存在している」

ウクライナの英字新聞キーウ・インディペンデントによれば、バフムトの兵士たちは弾薬の欠乏や砲兵からのサポートについて不満を語っている。また、前線で戦っている兵士たちはほんの2週間くらいの訓練だけで送り込まれてきており、十分な戦いができているか疑問だという。兵士のひとりは「生き残れるか半々ではない、3対7といったところだね」と語っているという。

いっぽう、ロシア軍に参加している民間軍事会社ワグネルのリーダー、プリゴジンの立場が微妙に変わってきているという情報も紹介している。ブリゴジンはくりかえし「弾薬が欠乏している」とSNSへの投稿ビデオで述べていた。ところが、3月5日の朝、ロシア軍はプリゴジンのこうしたウクライナ軍の「代表者」(気取り?)としての行動を禁じたとのことだ。同じような情報は他の欧米のメディアでも見られた。