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東谷暁による「事件」に対する解釈論

最大の軍事情報リーク事件の犯人と内実;21歳の若者と漏洩情報のレベル

この10年で米軍の情報漏洩事件としては最大と報じられたが、犯人は捕らえてみれば若い米空軍州兵だった。しかも、情報関係の部署にいるとはいえ、配属されて間もないまだ少年の面影が残る21歳の軍組織でも低い地位の若者なのである。なぜ、この若者ジャック・テシェイラが重要な情報をゲーマーとガンマニアの集まるサイトで公表できたのか。


この事件について先行して報道している米紙ワシントンポスト4月13日付は、「彼は愛国的家庭の出身で、米国の秘密情報をリークしたとされる」を掲載している。この記事ではテシェイラのプロフィールを、軍やその他の公的機関だけでなく、彼の友人たちからかきあつめて、「最大のリーク事件」を引き起こした若者の正体に迫ろうとしている。

まだまだ情報不足だが、軍へのボランティア活動に参加していた母親だけとの家庭に育ち、電子技術専門学校を卒業して空軍州兵となり、訓練をうけてマサチューセッツ州のケープコッド近くの基地に勤務するようになって間もないようだ。仕事は情報部門ではあるが、年齢からしても経歴からしても、とても「最大の漏洩事件」となるような「重要情報」にアクセスできるような地位にあるとは思えない。

しかし、同紙の取材によれば、彼がチャットサイト(ディスコードというプラットホームの中の特定のチャットというのが正しいらしいが)に投稿した程度の情報は、部下を率いている軍曹レベルでもアクセスできると証言している軍関係者もいる。ウクライナ戦争関係の漏洩情報については、ウクライナ軍の状況についての情報はあるが、これからどのような大反撃をするかの情報は漏洩していないとのこと。ここらへんがまだ曖昧だが、漏洩情報のレベルがどの程度がについては、もう少し詳しい報道がないと、よく分からない。


この若者についても、母親が軍がらみのボランティア活動をしていたというので「愛国的な家庭」と書いているのかも知れないが、果たしてそれだけで愛国的といえるのだろうか。また、彼が参加していたチャットが政治や軍事についてのもので、「友人」によれば人種差別かつ反ユダヤ的な言辞を弄したビデオが投稿されていたそうだが、それとこの漏洩事件との関係もまだよく分かっていない。

そんなことよりも、アメリカという世界の超大国の機密情報というのが、このようなかたちでアクセスされてSNSに流出するということのほうが、よっぽど驚きで、情けない話ではないのか。ワシントンポストの最近の報道は、バイデン政権に好意的であり、ウクライナ戦争についても「民主主義を守る戦い」と位置付けているが、その戦いを危うくしているのが、アメリカ軍の組織だということにはならないのだろうか。

疑問がつぎつぎと沸き上がり、少ない情報から多くの感想を述べてしまったが、ともかく、この事件の概要をワシントンポスト4月13日付に掲載された「われわれはトップ・シークレットを漏洩したと告発されている21歳の人間について何を知っているのか」という、見取り図のような記事から、もう少しひろっておこう。

ジャック・テシェイラとは誰か:彼の軍歴の始まりは、2019年9月26日にナショナル・ガードに登録されたときに始まる。自宅はマサチューセッツ州でボストンから35マイルのところにあるダイトン。ディスコードの仲間によれば、彼が人種差別的で反ユダヤ的な主張を怒鳴っているビデオを投稿している。また、友人のひとりは、彼が愛国主義的であり、カトリックの信仰をもっていて、銃についてはリバータリアンであり(武装する権利を支持するという意味か?)、そしてアメリカの未来には懐疑的だという。

リークされた情報とは何か:アメリカが外国について集めたインテリジェンス、それはロシア軍やスパイ組織についてのものだけでなく、ウクライナイスラエルさらにアジアにおける同盟国たとえば韓国についての情報も含まれているという。とはいえ、ウクライナについては軍の陣容などに微妙なものもあるようだが、いつ大反撃を開始するかなどの決定的なものはないという。

テシェイラがアクセスできた情報のレベル:いまのところはっきりしていない。しかし、少なくとも漏洩したものから考えればジョイント・ワールドワイド・インテリジェンス・コミュニケーション・システム(JWICS)にはアクセスしていたことが分かる。これは、これからの調査でもっと広がる可能性はある。


テシェイラがリークした情報はどの程度のレベルの人間がアクセスできるのか:数千人の軍人および政府の役人が、彼がリークした情報にアクセスできるものと思われる。つまり、きわめて高いレベルの情報だとは必ずしも言えないのではないだろうか。ここらへんは、ちょっと意外な気がするが、もちろん、米国の人口からすればごく少数だろう。

どうもここらへんが、ちょっとわからないところで、軍人なら将軍レベル以上とか官僚なら局長以上だとかいうのなら、この騒ぎも分からないでもないが、政府関係者の数千人ならアクセスできるというのは、(もちろん漏らしてはいけないとしても)「最大の漏洩事件」というような話なのだろうか。ともかく、もう少し分析が進むのを待たないと、その漏洩の規模と影響がはっきりしない。