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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ウクライナがドローンでクレムリンを直撃!;ロシアはプーチン暗殺の企てと非難している

クレムリンがドローンによる攻撃を受けたとの報道が1時間ほどまえからネット上に流れている。いまのところ明確ではないが、ロシア側の発表によれば、このドローン攻撃はプーチン大統領を狙ったものだったが、プーチンは無事でその他の損害もたいしたことはなかったようだ。


英経済紙フィナンシャルタイムズは5月4日21時すぎに「ロシアはウクライナプーチン暗殺を企てたと非難している」との電子版を流した。その後「ロシアはウクライナがウラジミール・プーチンの暗殺を試みたと非難」との記事を22時過ぎに増補している。ロシア軍情報部は2機のドローンを撃墜したと述べているらしい。

クレムリン政府は「プーチンは無事だったが」、この攻撃はロシアの大統領の暗殺を企てたもので、来週の火曜日に行われる戦勝記念日のパレードを前に「計画されたテロリズム」であると非難しているという。「ロシアはしかるべき時と所に、報復処置を行う権利を有している」とクレムリンは主張している。

ft.comより:ドローンの攻撃で炎上するクレムリンのドーム

 

「いまのところ、まだどのような攻撃が行われたのか明瞭ではないが、クレムリン系のソーシャルメディアには、プーチンの住居を目指して低空飛行するドローンが現れ、その直後、爆発して火の玉となったという。ほかのビデオではクレムリンのゴールデンドームのある中世時代の教会を越えて、対空砲撃が行われる様子が見られた」(同紙)

モスクワの軍事シンクタンクによれば、ドローンはおそらく民間市場で購入され、爆発物が取り付けられたものだと思われるとのことである。クレムリンは国境から800キロのところにあるが、今度の攻撃はロシア国内に潜入して近くから攻撃したとみられる。また。ドローンを使って攻撃する少数のチームの仕業だと思われるとのことだ。


ただし、ウクライナのドローン製造を行っているエンジニアによれば、同国には「国外からモスクワまでドローンを飛ばす能力があるとのことで、ドローンを800キロ飛ばすのは難しくはない」と語っているという。

実は、少し前にもウクライナクレムリン攻撃を計画していたが、情報がもれてアメリカが無理やりやめさせたという経緯がある。今回はアメリカを無視して行ったのか、あるいはアメリカが是認したのか、それは明らかになっていない。いずれにせよ、ウクライナとしては、自国の首都が激しく攻撃を受けているのに対して、ぜひとも一矢報いたいという気持ちがあったことは確かである。

こうした攻撃は必ずしも、プーチンを暗殺するために全面的な計画で行われたというものではないとの見方もあるが、その作戦を成功させる能力を示すことで威嚇してモスクワを動揺させる効果を狙っていることは間違いない。全体としてみれば、これから始まる大規模な反抗の前哨戦、あるいは陽動作戦の一環ではないかと思われる。

【追記 5月4日】ウクライナのゼレンスキー大統領は、すかさず「われわれは関与していない。われわれの戦いはウクライナ国内に限られている」とアピールした。もちろん、いま日本のマスコミが好んで取り上げているような「ロシア自作自演」の可能性がないとはいわない。

しかし、この説が流れたのもまた事件から半日とたたないうちだった。本文で触れたように、ウクライナのドローンチームがモスクワ攻撃を企てていたが、それがアメリカの機密漏洩事件であきらかになり、アメリカ政府が強く中止をもとめたという経緯を思い出せば、単純に「これは悪辣なプーチンの仕業だ」などと結論付けるわけにはいかない。そもそも、「不自然な点がある」だけで、短時間の間にプーチンの自作自演だとなぜわかるのだろうか。


そもそも、すでにウクライナはロシア国内にある軍事飛行場をドローンで攻撃している。このときもアメリカ政府はかなりピリピリしたようだが、「いまの戦いは防衛戦だから、戦いはウクライナ国内に限定される。アメリカは防衛戦に支援している」という態度を守りたいのだろう。しかし、「攻撃は最大の防御」であり、「専守防衛が最も愚劣な戦略」であることを思い出せば、自国内を攻撃する敵国内の基地を先制攻撃するのは、戦術として当然のことであり、ウクライナ国民であれば当然の報復措置であると感じるだろう。

さらには、いまも首謀者がわかっていないクリミア大橋の破壊や、ロシア国内で起こっている襲撃事件についても思い出せば、ウクライナがまったく関与していないというのは逆に不自然だろう。わたしは、ウクライナを非難したくていっているのではない、戦争を遂行している国家の国民の感情と意欲として自然だといっているだけなのだ。それがすべてロシアの自作自演とするのは、逆に不自然ではないのか。


いまやウクライナ情勢をめぐる報道は、完全に戦時情報戦と化している。ジ・エコノミストの4月3日付で「ロシア、数週間以内にバフムト奪取か」という記事を見つけて、ちょっと時間をおいてからクリックしたところ、それは「ウラジミール・プーチンの不幸な記念日」というタイトルに変わっていた(註1)。もちろん、同誌が圧力に屈したなどとはいわないし、また、タイトルを効果的なものにするという意図で変えることなどいくらでもある。しかし、これはちょっと大きな「不自然な」変更ではないだろうか。つまり、西側マスコミがいまきわめて神経質になっていることは確かなのである。

註1:この記事について簡単に触れておくと、バフムトはロシアの手に再び落ちようとしているというのが前段である。そして後段が、そのための兵力の喪失や時間の長さからいって、たとえバフムトがロシアのものになっても、犠牲があまりにも大きく、5月9日の戦勝記念日でパレードをやって喜んでいられないだろうというものである。

【追記 5月4日午後】ワシントンポスト紙5月3日付は「ロシア政府はウクライナのドローンにクレムリンが攻撃されたと主張し、ウクライナ政府を非難している」を掲載している。このなかで次のような文が書かれているのは興味ぶかい。「もしウクライナ政府あるいはその支援者がこの事件の背後にいるとすれば、ロシアがナチス・ドイツを撃破したという戦勝記念日を祝う前に、このドローン攻撃はロシアの権力の中枢に深刻な脆弱性があることを明瞭に証明したことになる」。まあ、単なる親バイデン政権メディアの願望といえないこともないが、本文および追記で書いたように、大筋はこれが否定できない線だろうと思われる。