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東谷暁による「事件」に対する解釈論

バフムトでのウクライナの反撃は大規模反攻の狼煙なのか;「戦場の霧」の中でさらに過熱する情報戦

ウクライナはすでに大規模反攻に踏み切ったとの情報が流れている。ウクライナ東部のバフムトで小規模ながら奪還を達成しているからだ。もちろん、「戦場の霧」はきわめて濃いので不明な点は多いが、バフムトの反撃が大規模反攻そのものではないとしても、陽動作戦の一環という可能性を含めて、もうウクライナ軍は動き出している。


英経済紙フィナンシャルタイムズ5月13日付は「ウクライナの反攻はバフムト周辺での奪還から始まっている」を掲載している。短いものだが、「ウクライナ軍はバフムト周辺で26回にも及ぶ急襲を断行した。それには、数千人の兵士と40基の戦車が参加し、バフムトおよびソレダルの最前線から60マイルほど前進した、とウクライナ国防省は5月12日に発表している」。

ロシア側はいくつかの部隊が「より有利な地点へ」移動していることを認めているが、ウクライナ軍が前線を「突破」することは、阻止していると述べているという。しかし、ウクライナのハンナ・マリア国防副大臣は「何か起こっているか? まず、敵は東部で進軍を企て、わが軍は防衛作戦を遂行しています。とはいえ、この防衛には文字通りの守りだけではなく、反攻も含まれています」などと意味深長な表現を使っている。


何人かの軍事専門家たちは、いまの時点でウクライナが反攻に出たと、断言できる情報はない」と指摘しているが、独立系の軍事アナリストであるコンラート・ムジカは5月12日に、「いま、まさに、確かに」、ウクライナの大規模反攻は始まっていると、バフムトの戦いに言及しながら論じているという。

ウクライナのゼレンスキー大統領は5月11日に、「いまはまだ大規模反攻のための準備ができていない」と語っていたが、この問題に通じているある人物は「大統領のメッセージはマスコミと西側諸国向けであって、ウクライナへの支援をさらに求めるためのものであり、モスクワへのフェイントなのだ」と指摘したと同紙は報じている。


他のメディアでもこの微妙な状況を取り上げているが、たとえば、英経済誌ジ・エコノミスト電子版5月12日号は「バフムトでの再反撃はウクライナの大規模反攻の噂に火をつけている」を掲載して、「現実はつねに戦場の霧に曖昧にされてしまうが」と断りつつ、ウクライナ軍のバフムトでの反撃が、これから始まる大規模反攻と何らかの形でつながっていることは認めている。というのも、ゼレンスキーが述べていた「準備」、つまり、西側諸国からの長距離射程のミサイルが次々と到着しつつあるからだという。

もちろん、バフムトで反撃して、少しでもこの地域にロシア軍をひきつけておいて、たとえばザポリージャあるいはヘルソンで大規模反攻を一気に開始するということもありうる。こうした西側諸国のメディアによる報道へのリークを含め、かなり激しく微妙な情報戦が繰り広げられていることは間違いない。