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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプが大統領再選でほぼ決まりの理由;叩かれればそれだけ支持が固まるメカニズム

アメリカ大統領選挙の候補者選びが事実上始まっているが、共和党はトランプが圧倒的な強さを誇っている。そんな馬鹿な、と思う人もいるかもしれないが、女性問題で告訴されたことすら「不当な弾圧」とされて、トランプには有利に働いている。どのようなメカニズムと心理によってトランプは勢いを取り戻したのか。改めて確認してみよう。


ここで材料にするのは、英経済誌ジ・エコノミスト5月25日号の特集で、社説にあたる部分でトランプを押し上げている要素を簡潔にまとめている。「ひとりの候補は批判をものともせずに巨大に、相手を寄せ付けない勢いだ。この候補、ドナルド・トランプは、いまや本当にアメリカの次期大統領になる現実味を持ちつつある」というわけだ。

トランプは2018年の中間選挙で負け、また、2020年の大統領選挙でも敗北を喫した。そのあと「大統領の不当奪取を許すな」とキャンペーンをやり続けたが、支持者に議会への襲撃を煽った疑惑もあって、国民は彼に対する疑問を募らせるようになっていた。「それなのに、トランプが共和党の大統領候補となるのか。その通りなのである」。


「2016年や2020年のときには、アメリカ共和党は『トランプに乗っ取られた』という見方が強かった。しかし、2023年のいまにおいては、ドナルド・トランプこそ共和党のフロントランナーなのだ。しかも、それは彼が乗っ取ったからではなくて、共和党の多数派が彼のことを本当に好きだからなのである」。

大きいのは、トランプが共和党を乗っ取ろうとしていた2016年や2020年に、彼と真正面から対決した共和党の政治家たちが、いまや上院でも下院でも、もはや敗退しているか引退してしまっていることだと同誌はいう。たとえば、2021年にトランプ弾劾に賛成した議員のうち、いまも残っているのはわずか2人になってしまった。

しかも、いまのトランプというのは、2016年に大統領候補に名乗りを上げたころの素人政治家ではない。それどころか、さまざまなキャンペーンを通じて、相手を倒し、危機を潜り抜けるのに、きわめて巧妙な作戦を展開する老練で悪賢い政治家へと成長し、圧倒的な支持を受けている。世論調査でみても、フロリダ知事だったデサンティス大統領候補には支持率で33%も差をつけているのである。

すでにデサンティスには圧倒的な差をつけてしまった

 

もちろん、いまの時点でのことで、しかも、トランプを支持している58%というのは、いまの予備選挙段階でのことで、デサンティスが伸びていないといっても、まだ態度を決めていない共和党支持者が半分くらい残っている。これからデサンティス以外の有力候補もどんどん出てくるのではないかと思ってもおかしくない。

しかし、これは実はまったく間違いなのだと、ジ・エコノミストは指摘している。他に有力な共和党政治家がいたとすれば、もうすでに名乗りを上げていなければならないし、そもそも、これから予備選で候補者が増えたとすれば、ますますトランプに有利になる。というのは、いまのトランプ支持者の態度からみて、新たな候補たちは単に残りの票を食い合うだけのことだからである。


たとえそうであっても、いまやトランプは34件の罪に問われていて、絶体絶命なのではないかと思っている人もいるかもしれない。しかし、まさにこの訴訟こそがトランプを復活させてしまった大きな原因であることを思い出すべきだろう。すでに述べたように、トランプは罪に問われれば問われるほど、「民主党の陰謀による弾圧」として支持者たちの結束を強めることになってしまう。トランプはメールで次のように煽っている。

「2024年の大統領選挙こそが、私たちが共和党を守ることができるか、ひいてはアメリカが僭主の闇の力に屈してしまわないかを決めるのだ」

これはトランプが冗談で書いている「投稿」などではなく、本人がどこまで本気で思っているかは分からないが、これから再び大統領選挙に臨む元大統領の、大真面目な選挙民へのメッセージなのだ。ちなみに、「闇の勢力」とか「ディープ・ソサイティ」とかをトランプは連発するが、これは別にこの人物だけが使う隠語ではない。

昔、クリントン大統領が引退後に出版した自伝にも「悪の勢力」という言葉が頻出して、最初は何のことかわからなかったが、それは共和党のことだと気が付くまでにそれほどの時間は必要なかった。ようするに怪奇漫画のような表現で罵り合うのが、この国の政治家たちの言語空間なのだということだろう。こうした言語空間が成立するのは「ポスト・トゥルース」の時代であればのことだが、トランプの場合、天性の煽りの才能と狡猾さが、彼をこのいかがわしい時代の最先端に立たせているのだ。


とはいえ、今度のトランプ大統領候補は、アメリカのみならず世界の運命を大きく変えてしまう可能性がある。バイデンに対しては支持政党を考慮しなくても米国民の7割が「出るべきでない」とし、その半数が年齢について強く危惧している。トランプの勝利の可能性は高い。ウォールストリート紙4月23日付の発表ではバイデン支持48%に対してトランプ45%だが、ここで再び景気が後退すれば逆転の可能性が高くなる。そして、バイデンの高齢は無条件に進んでいく。

トランプが勝ったとすれば、これまでバイデン政権が野放図に支出してきた財政政策はどうなるのか。また、すぐにも支援をやめてしまうかもしれないウクライナの戦争はいかなる局面を迎えるのか。もちろん、台湾問題にしても冷酷な「ディール」をあてはめ、トランプは自分の損得で判断する気なのかもしれない。

バイデンについては80歳という高年齢がネックになっている


こうした世界規模の大問題が並んでいるなか、トランプの大統領再選を最も左右するのは、女性への性的攻撃で訴えられている裁判の行方だというのも、汚辱にまみれたアメリカの「トランプ時代」にふさわしいといっては語弊があるかもしれないが、現実なのでしょうがない。裁判のほうは選挙戦がたけなわとなる2024年5月25日から始まるらしい。