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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ハニヤ暗殺はゲストハウスに仕掛けた爆弾による;モサドの作戦は成功したがイスラエルはさらに孤立へ

ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤが暗殺されたが、それはテヘランの定宿にしていた施設に、数か月前から仕掛けられていた爆弾によるものだった。また、その作戦を指導したのがイスラエルの情報機関モサドによるものであることはほぼ間違いがない。最初はミサイルによる殺害ではないかと報じられていたが、ニューヨークタイムズ紙による中東諸国の高官への取材で、事実がほぼ明らかにされた。


モサドが仕掛けておいた爆弾を遠隔操作で爆破させて、ハニヤを暗殺したというニュースは、いま世界中をかけめぐっているが、そのもとネタはニューヨークタイムズ紙8月1日付の「テヘランのゲストハウスに数か月前に仕掛けられた爆弾によってハマスの指導者を殺害」との記事である。この事実によって、イランは「客人を殺された」という負い目だけでなく、イスラエルの工作を阻止できなかったことでも報復への「義務」が大きくなった。

同紙によれば、ハニヤが先週の水曜日に暗殺されたのは、テヘランのゲストハウスに仕掛けられた爆発物によるものであり、このゲストハウスはイラン革命防衛隊の管轄にありハニヤの定宿だったらしい。ニューヨークタイムズ紙によれば、こうした事実は2人のイラン人を含む、7人の中東国の高官からの情報によるものだという。もちろん、昨年10月7日の虐殺に対する報復の一環に他ならない。


「5人の中東国高官によれば、爆弾はおそらく2カ月前にゲストハウスに仕掛けられた。このゲストハウスはイランのイスラム革命防衛軍が経営および防衛を行ってきたもので、ネシャットと呼ばれ、テヘラン北部の高級住宅街に立っていた。ハニヤ氏は新大統領の就任式のためにテヘランに滞在していた。5人の高官によれば、爆弾はハニヤ氏が室内にいることを確認したうえで、遠隔操作で爆破されたという。この爆破でボディガードも殺害されている」

この爆破によって、イスラエル国内の強硬派は高い評価をくだし、ネタニヤフ首相はいましばらくは監獄に収監されずに、大好きな権力を享受できるだろう。しかし、それは長く続くのか。ニューヨークタイムズは次のように述べている。「この情報戦という分野において、イスラエルの能力が高いことは改めて証明された。しかし、それはせいぜい短期の弥縫策にしかならず、長期戦略的にはむしろ負債を抱え込むことになる。この暗殺はすでに中東地域の本格的な戦争を呼び込みつつあるといわれ、事実、ヒズボラもイランも暗殺への報復を表明している」。

これから明らかになる新しい情報についても、改めて紹介したいが、イスラエルの対外情報機関であるモサドが主導して、昨年の10月7日の虐殺への報復の一環として行われた。同記事の最後は、1972年のミュンヘン・オリンピックでのパレスチナ人たちによるイスラエル選手殺害とそれに対する報復について言及している。


イスラエルによるハニヤ暗殺作戦は、同国の対外情報機関であるモサド主導によって遂行された。モサドの長であるデヴィッド・バーネアが今年1月に、モサドには昨年10月7日の攻撃を行ったハマスのリーダーたちを撃滅する義務があると述べていた。『ミュンヘン虐殺の後にも時間がかかっているが、虐殺者たちがどこにいようと我々の部下たちは彼らを把捉するだろう』」

フィナンシャル・タイムズ紙8月1日付の「イスラエルのスパイが彼らの報復を果たした」によれば、モサドはターゲットとしてきた「ハマス指導者6人のうち4人を殺害し、残りは2人だけになった」という。その過程でも今回の最高指導者であるハニヤ暗殺の成功は大きい。

しかし、すでに報じられているように、イランはイスラエルへの「報復」を表明している。それがどのようなものになるのかは不明だが、少なくともこれまで試みられてきた停戦への努力は、実はイスラエルのネタニヤフおよび情報機関においては、まったく真剣なものでなかったことが明らかになり、完全に無に帰したといってよい。