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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ディベートはハリスがトランプを圧倒!;この勝利の賞味期限は何時までか

ハリスとトランプのディベートは、ハリスの圧倒的勝利という結果に終わった。もちろん、これが大統領選にそのまま反映するわけではないが、やはり大きなファクターといえる。トランプは終始受け手に回って、ハリスの顔を見ないようにしていた。これはこれで「戦略」だったのかもしれないが、テレビで映像になって流れてしまうと、相手を叩きのめす「戦闘」を怖がっているような印象を与えてしまった。


最初からハリスはアクティブなイメージを印象付けようとしていた。ディベートが始まる前に舞台にあがるや、すぐに動きの鈍いトランプのところにいって握手を求め、快活に振舞って「攻めるのは私だ」という姿勢を示した。トランプがほら話を繰り返しても、誰もおどろきはしないが、そのほら話のたびに、どうしようもない駄々っ子を見守るような表情をしてみせて、自分は優位に立っているという印象を与えるのに成功したといえる。


もちろん、ハリスも「失言」に類する言葉がないわけではなかったが、それがまったくの悪意や虚言という印象は、明るい表情を維持することで、残さずに済んでいる。いっぽう、犬や猫の肉を食べたというような話をし始めたトランプは、どこまでいってもこの人物はこうした根拠のない話で人を怖がらせる気なんだなという印象を強めた。もちろん、これはトランプ崇拝者の票を失うことにはつながらないが、新しい票が増えないことには十分貢献したといえる。


すでにトランプが「守り」のスタンスで臨むことは予想されていたが、それを見越してハリスは前もって話す内容を準備し、安心して予定どうり「攻め」の姿勢で言葉を並べていったといえるだろう。「カマラ・ハリスは、アボーションから大統領としての適正まで、多くのテーマで、ドナルド・トランプに連打をお見舞いして、彼がホワイトハウスに戻ってくればどんなにひどいことになるかを印象づけた」(フィナンシャル・タイムズ9月11日付)。


トランプは、ときどきマイクがオフになっているにもかかわらず、「待ってください、私が話しているんです」とコメントを入れたが。もちろん、これは2020年の大統領選挙のさい、発言中に反論する共和党副大統領候補マイク・ペンスに対し、ハリスが牽制するさいの言葉だった。これはトランプが前もって準備して練習したと言われているが、その皮肉が少しも生きることなく、不発におわった。


もちろん、トランプが得点を稼いだテーマもあった。独紙フランクフルター・アルゲマイネのマジット・サタール記者によれば、「トランプは経済・金融問題では得点することができた。ハリスはあれもしたいこれもしたいと述べたが、彼女の場合の問題は、それではなぜこの3年半のあいだにやらなかったのかということになってしまう。アメリカ国民がインフレで苦しんだのはトランプがコロナ禍への対策をしなかったからだと述べたが、これは得点圏に届いていない」。

ハリスがもう一度ディベートをやりたいといっていると聞いたトランプは、「それはハリスが自分は負けたと思っているからだ」と強気で言って見せたが、その後にあふれた印象調査からは、そうした説明は空しく響く。トランプのスタッフたちも「グレート・ジョッブだった」と発言したが(フィナンシャル・タイムズ9月11日付速報)、これはむしろ予想したよりは失言が少なかったので致命傷にはならなかったといっているように聞こえる。


共和党上院議員リンゼイ・グラハムは「トランプはディベートでチャンスを無にしてしまった」と冷たいが、いっぽう、米民主党上院議員クリス・マーフィは「ハリスは振る舞いが機敏だったけれど、選挙の行方はまだ接戦で分からない」とコメントし、勝って兜の緒を締めよとの警告を発している。これは圧倒していたはずのヒラリー・クリントンの敗北という、貴重な経験に基づくものだろう。そして、有利になってみれば11月の選挙はまだ先に見える。なお、タイラー・スウィフトが正式にハリスへの支持を表明している(フィナンシャル・タイムズ9月11日付)