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東谷暁による「事件」に対する解釈論

またしてもトランプ暗殺未遂が!;こんどの事件は大統領選を変えるか?

トランプがまた狙撃されかけた。こんどは流血をみなかったものの、この大統領候補の独特キャラクターが、暗殺への誘惑を生み出すのかもしれない。すでに犯人は逮捕されており、周囲の情報も急激に増えているが、では、この事件はトランプへの支持を押し上げることになるのだろうか。その点に注目して、この事件の影響力とトランプのキャラクター、そして大統領選の今後を考えてみよう。


アメリカの民主党系新聞ではよそよそしいかもしれないので、いちおう英国紙ザ・タイムズ9月15日付のタイトルもそのものズバリ「ドナルド・トランプを殺害しようとする今回の試みは米国の大統領選挙に影響を与えるか」から見てみよう。同紙は2カ月たらずの間に再びトランプ暗殺の試みがなされたと書き始めて、つぎのようにいまのアメリカ大統領選の状況を再確認している。

「トランプはほとんどの世論調査の支持率で、すでにカマラ・ハリスの後塵を拝すようになっている。しかし、選挙戦がもう終わりになっているというには早すぎるだろう。たとえ、この間のディベートによってハリス副大統領の勝利が、広く認識されたとしてもそうなのだ」


前回、ペンシルベニア州バトラーで狙撃事件が起こり、トランプは血を流しつつも生き延びたことによって、トランプへの支持率は飛躍的に上昇した。それはトランプが恐るべき事件の直後に腕を振り上げて支持者に闘いを呼びかけた劇的な瞬間によっても加速されたことだろう。「あの事件のさい、両陣営に属する多くの人たちは、今回の一撃によって選挙の趨勢は決定的となったと思ったものだった」。

ところが、事態は急転していく。それまで立候補にかたくなに固執していたバイデン大統領が選挙からの撤退を決意し、ハリスが立候補を表明するとたちまちにして、民主党の結束が固まり、また、民主党系メディアも盛大にハリス支持の雰囲気を盛り上げた。ついにはディベートの勝利によって、かなり優位に立つところまできたわけである。それでは、今度の「一撃」はトランプを、一時的にせよ再び世論調査において優位に押し上げるのだろうか。


どうやらそうではなさそうである。「世論調査はトランプへの狙撃が影響を与えたと思われる兆候を数日間は見せるかもしれない」。しかし、それは長くは続かないだろうとザ・タイムズは予想している。なぜなら、それは前回の劇的な事件ですらも、長続きはしなかったことをみても分かる。「7月の一撃ですら、すでに激しい選挙戦のなかの、ひとつのエピソードでしかなくなっているのだ」。そして、次のように述べている。

「トランプがこれから票を稼ぐとすれば、どちらにするか決めかねている曖昧な有権者か、政策やキャラクターに惹かれてハリスに投票しようと変心していた共和党支持者が戻ってくるケースであって、トランプが今回またしても危険に遭遇したからではないのである」。おそらくここらへんが妥当な予想といえるだろう。


なお、同日付のザ・タイムズには「トランプ暗殺未遂事件のアップデート」がついていて、他のメディアと同様に、この暗殺を試みたのはウクライナ支援活動家のライアン・ウェルズレイ・ラウス58歳であることを報じている。トランプはゴルフに行った帰りに、この男によって暗殺されかけたが、男の銃が見え隠れしているのがシークレット・サービスに発見された。いまは西パーム・ビーチ警察署に連れていかれているとのことである。これまでの調査によれば、このライアン・ロスは2016年にはトランプに投票していた。

興味深い情報としては、トランプ支持者で大富豪のイーロン・マスクがXに「だれもバイデンやカマラを暗殺しようとしないなあ」と投稿したため、多くの投稿者の非難の的になっているという。もちろんマスクは書いていないが、誰かやってみたらどうだというニュアンスが含まれているとされて(そう読めるだろう)、新たな暗殺事件を煽る行為として、マスクの軽挙妄動を批判しているわけである。


また、容疑者ライアン・ラウスの息子であるオラン・ラウスがCNNの取材に答えて、「親父がトランプを殺そうとするなんて馬鹿げている」と話しているらしい。「親父のキャラクター以上のことは話す気はないよ。親父を愛しているし世話も焼いているからね。フロリダで何が起こったのか俺はしらない」。さらにデイリー・メールには「俺の親父はそんなことをする人間じゃないよ。そもそも、俺は親父が銃をもっているなんてことも知らなかった」と語っているという。

もう少し時間が必要だが、この事件はやはり今回のアメリカ大統領選を決定的に動かすようなものにはなりそうにない。ザ・タイムズが述べていたように、数日間、多少数値の動きに影響を与えるかもしれないが、「ひとつの選挙の挿話」にとどまり、これで大きく変わることはないだろう。ただし、アメリカ大統領選そのものは、まだ一波乱も二波乱もあるとみたほうがいい。