イスラエルはヒズボラとの全面戦争に突入しようとしている。ガザ地区での徹底した戦いかたをレバノンにも適用しようとしているのだろうか。軍備について考えれば、素人目にみてもアメリカ製を含めて圧倒的であるように思われる。しかし、ではイスラエル経済はこの新たな戦争に耐えうるのだろうか。ハリスとトランプ、いずれがアメリカ大統領なってもこの戦争を支持すると思われるが、イスラエル国内はそれが可能なのか。
英経済誌ジ・エコノミスト9月24日付は「イスラエル経済はヒズボラとの全面戦争を生き延びることができるか」を掲載していて、これからのイスラエルによるヒズボラ戦争が経済的にみてどうなるのかを予測している。まず、労働力だがガザ地区での戦争に駆り出された30万人の兵員は、いまやオフィス、工場、農場に帰還しつつある。4月から6月のGDP伸び率は年計算で0.7%。これは予測より5.2%も低く、労働力の復帰が低迷から脱出させてくれるのではないかとの期待を裏切っている。ヒズボラとの戦いがこれから本格化すれば、いまの職場への復帰の流れはストップするだろう。
経済の成長が低いだけでなく、イスラエル経済でいま問題になっているのは、キャピタル・フライトの発生である。預金者の多くが預金をドルに換えるか、あるいは海外の銀行に移そうとしているという。「5月から7月までの間に、イスラエルの銀行から海外の金融機関に流れた金額は20億ドル、これは昨年の同じ時期の2倍に相当する。イスラエルの経済政策担当者たちはこの現象を重く見て憂慮している」。イスラエルの通貨シェケルの価値は乱高下しているが、中央銀行は経済回復が軌道から外れるのを恐れて金融政策を変更していない。それがまた投資家たちに不安を抱かせてシェケルの価値が定まらないのだろう。
もちろん、いまのネタニヤフ政権の野放図な軍事関係への財政支出が、イスラエル経済を好転させるということはあり得ない。今年の5月、軍が7月までに停戦に持ち込みたいとしたさい、将軍たちの認識では160億ドル(イスラエルのGDPの3%相当)が必要だということだった。これは今までの防衛費に追加する分だけでそのくらいかかるということで、3%分追加というわけだ。実際、イスラエルの財政赤字は今年度だけでGDPの8.1%に達する。これは戦争を開始する以前の予想の3倍に達している。
いまの時点では、イスラエルの財政累積赤字はGDPの62%だから、それほどのことではないように見える。OECEの平均よりも低いのである。しかし、戦争が来年も続くようだと、財政悪化はかなりなものになることは明らかだろう。これはイスラエルの国債保有者にとっては黙っていられないレベルに達するとジ・エコノミストは見ている。(もちろん、これは日本の対GDPで250%に比べれば数字的には大したことではないが、イスラエスの経済規模で地政学的リスクも高いことを考えた場合の国債格付けが急落する)。
いうまでもなくイスラエルの財務大臣はベザレル・スモトリッチで、これがまたイスラエル経済への脅威となっている。いうまでもなく彼は宗教的右派の政治家であり、ヨルダン川西岸地区の植民を推進している(さらには、西岸地区併合を口にしている)。その彼がイスラエル軍にコスト削減を求めるということなどあり得ないと誰もが思っている。極右正統派や植民推進者たちは彼を支持している。というのも、スモトリッチが財務を握っているかぎり、植民の援助や補助金が得られるからだ。しかし、そのいっぽうでスモトリッチは来年度の予算で3500万ドルの予算削減を予定している。いったいどうすればそんなことが可能なのか、スモトリッチはつまびらかにしていない。
そして、いうまでもなくイスラエルへの投資者は、イスラエルがヒズボラとの全面戦争によってエルサレムやテルアビブを含めた同国全土に波及して、ヒズボラが常時ミサイル攻撃をしてくるような事態をこれまで考慮にいれていなかった。そうした事態になれば、イスラエルのGDPへのマイナスの効果は大きく、おそらくそれは昨年10月7日以上の影響を与えるだろう。移り気な投資家たちはイスラエルの銀行に打撃を与え、シェケルの価値下落を引き起こし、イスラエル中央銀行の介入を招き、財政支出の増大にもつながるだろう。
「どんな事態になろうとも、イスラエル経済は悪化することが考えられる。強気タイプのスモトリチ財務相であっても、いまや焦燥の色は隠せない。彼はいう。『われわれはイスラエル史上で最長で最も金のかかる戦争をしているのだから』。これまでの戦争でも最後にイスラエル経済は破滅的になった。今回そうなっても驚くには当たらない」