トランプの「嘘」は、ますますその本領を発揮しているようだ。アメリカ大統領選では民主党系メディアの頑張りによって、ハリスはたちまちにしてトランプを圧倒したような印象を産み出したが、ここに来てまた接戦といえるデータが発表されるようになった。これからの1カ月で何かが起これば、こんどはトランプが優勢にならないともかぎらない。このような微妙な状況でこそ、トランプの嘘は力を持つだろう。

独紙フランクフルター・アルゲマイネ10月9日付に「トランプが負けた場合の5つ嘘」が掲載されている。記者はソフィア・ドライスバッハ。2020年にトランプが敗北したとき、彼は選挙に不正があると主張して、それが議会襲撃をも引き起こすことになった。小さな嘘は信じられないが、大きな嘘なら信じてもらえると、ドイツの独裁者も言っていたことを思い出せば、ここに並べられた5つの嘘を今から知っていたほうがよい。
嘘その1「アメリカ国籍を持っていない移民が多数投票している」 メキシコとの国境にフェンスを張り巡らしたトランプならではの嘘だが、いかにもありそうな話だ。トランプは9月のハリスとのテレビ討論会でこの見解を表明したから、覚えている人も多いだろう。もちろん、ドライスバッハ記者は「この主張はあきらかに誤り」と指摘している。

フランクフルター紙より:トランプは嘘つきピノキオというわけだ
「ニューヨーク大学が42の選挙区を調査したところ、2016年の大統領選における2300万票以上の票のなかで、国民でない人の投票は30票だった。また、コンサバティブなヘリテージ財団が2002年から2020年の間に発見できた、同様の事例は100件に満たなかった」。30例でも100例でも、存在すれば「ほら、みろ。嘘ではないだろう」と居直れるところが、この種の嘘のつきやすさである。
嘘その2「トランプが負けたら、それは詐欺だったに違いない」 トランプは主張している。「私が負けたら、それは彼らが不正行為をしたからであります。それが我々を敗北させる唯一の方法なのだ。彼らが不正を働いたからだ」。まるで、こんな発言に何ら根拠は存在しない。前回負けたのは彼らが不正をしたからというなら、場合によれば根拠があるかもしれないが、これから起こることに、ここまでの自信をもって語るというのは、まったくの勘違いか頭の調子が悪いからだろう。しかし、こうしたレトリックはけっこう効果的なのだ。

嘘その3「郵便投票には大規模な改竄がある」 これはいかにも起こりそうなことで、だからこそ選挙後も郵便投票用紙を保存して、クレームがあれば再検査することになっているのだ。2020年にはこの再検査がいくつもの州で行われたが、勝利する候補者が変わるほどの誤差は発見されなかった。トランプは最近ペンシルベニア州で開かれた集会で、期日前投票の5分の1が不正だったと指摘したが「これに関する証拠は存在しない」。
嘘その4「バイデンからハリスへの候補者変更は憲法違反だった」 アメリカの選挙制度に詳しくない人が聞くと、ああ、そうか、と思ってしまうかもしれない。しかし、米民主党内では問題にされることはあっても、候補者を変えたからといって、憲法上、何ら問題はない。そもそも告示という制度がないのだ。トランプはハリスが候補者となって、しかも、彼女が急激に支持を得るのと見て腹を立て、こんなことをいったのだろう。「カマラ・ハリスはバイデンから大統領の座を盗んだ」。この話をもっともらしく流布させている人たちもいるそうだ。

私だって「外交」での嘘なら負けないぞ、というかも
嘘その5「選挙関係者が結果を操作している」 これは何度もトランプとその周辺が主張し、日本人の多く(評論家を含めて)が信じてしまった嘘である。トランプは最近、ソーシャルメディアへの投稿で、「わたしが勝利すれば、不謹慎な行為に関与した人たちが炙りだされ、残念ながら我が国でこれまで見たことのない規模で起訴されることになるだろう」と書いているという。こうしたレトリックは典型的なペテン師の口ぶりで、「わたしにまかせてくれれば、この金は100倍になってしまうんですけどねえ」と言っている輩と同様である。
この記事は次のような話で締めくくられている。「9月に行われた集会で、トランプ元大統領は、期日前投票で期間中に起こっていることは実に奇妙なことだと述べ、投票用紙が誰かの意のままに破棄されていると指摘している。そのような指摘のために、選挙管理人たちは自分たちの身の安全に危険を感じるようになり、11月の選挙には厳重な警備が必要だと考え、多くの投票所に防弾ガラスや襲撃の場合の非常ボタンが設置されるようになった」。

2016年ころに注目された流行語が「ポスト・トゥルース」だった。つまり、もう本当のことかウソなのか、区別がつかない時代に入ったというわけだ。まさに、この年、トランプがアメリカ大統領になって、あらゆる分野で世界的に混乱を生み出していった。政治、経済、文化、そして宗教においても、信頼というものが失われていった。それがいまの世界的な混乱を生み出している。このポスト・トゥルース時代にあっては、真理が嘘になり、嘘が真理に転じることなど日常茶飯事なので、ポスト・トゥルースという言葉すらも風化している。