イランは核武装に至るのか。イスラエルはそれを阻止する行動に出るのか。この問題を考えるうえで、イランのいまの開発力がどのレベルにあるのか、そして、どれほどのスピードで核保有に至るのかが問題になる。実は、その開発期間については確定した説がなく、そのこと自体がリスクを生み出している。1、2年なのか、それとも4、5年なのか。イスラエルの当面の反撃がどうなるかを大きく左右することになる。

まず、イランの最近の変化から見てみよう。米外交誌フォーリン・ポリシー電子版10月11日付に掲載されたロンドン大学客員教授アラシュ・ライシネザドの「イランの対イスラエル戦略はすでに変化している」によれば、イランにはすでに7つの変化があったという。この変化はもちろん、イランが核兵器の開発を加速し、そして核兵器による威嚇を行い、さらには、攻撃に使用するリスクを高めている。
第一は、「イランの国家および軍事戦略は、非国家的組織との同盟から抜け出して、新しい防衛の形に移行している」という。つまり、これまでのイランの対イスラエル戦略は、イスラエルのガザ地区のハマスやレバノンのヒズボラへの支援という形で行われていたが、4月と10月の報復のように、ミサイルを大量に発射する戦いに変化しており、より直接的な攻撃に移っているというわけである。

第二に、「イランはさらに従来の『戦略的忍耐』の態勢(ポスチャ―)を放棄している」という。この「戦略的忍耐」というのは、たとえイスラエルが攻撃してきても、直接的な反撃はひかえて間接的なものにとどめ、自国が消耗するのを回避するということだろう。攻撃を受けても、イスラエルを激しく批判はするが、本格的に戦うような事態にはならないようにしてきたわけである。しかし、4月のミサイルによる報復、10月のミサイル攻撃はその態勢を逸脱していた。
第三に、「イランはいまや防衛についての政策を公的に認識できるようになっている」。たとえば、イスラエルのイスラム革命防衛隊のアバス・ニルフォールシャン将軍の暗殺に対して、イスラエルに対して損害を与える攻撃を明示的に実行して、自国の意志と能力を示したわけである。「4月の対イスラエルミサイル攻撃はほとんどが阻止されたが、10月の攻撃においては何発かのミサイルが、イスラエルの高度な防衛システムを突破している」。

第四に、「イランの対イスラエル攻撃の新たなレッドラインも明らかになった」。これまでの15年間、イランは軍事基地に対して攻撃を続けており、しばしば、上級将官を殺害することがあった。しかし、それに対して「レッドライン」を超えたとして報復することはなかった。ところが、4月、イスラエルによるダマスカスのイラン領事館への砲撃は、2週間後のイランによるミサイルとドローンによる報復を呼び起こした。つまり、イスラエルの攻撃はレッドラインを超えたと見なされたのである。
第五に、「イランのアラブ人一般への影響力は明らかに高まっている」。10月のミサイルによるイスラエル攻撃によって、イランのイスラム世界での人気を回復させる可能性があるという。たとえば、ガザでのハマス対イスラエルの戦いによって、パレスチナ人やアラブ社会におけるイランへの支持は高まってきた。この点、イランの新大統領がペシュキアンになったことも、外交的にはアラブ世界との協力関係を強化しやすいといえる。

第六に、「これからのイスラエルによるイランへの報復作戦は、イランの核戦略を劇的に変える可能性がある」。イラン国内には強硬派陣営において、核エネルギーを追求する強い声が存在しており、彼らはイスラエルの侵略を阻止するためには、核兵器を開発する決断が必要だと主張しているという。「この主張の根底にある考え方は、もしイランの核施設に対する攻撃がイスラエルによって行われれば、かなり勢いを増す可能性があるだろう」。
第七に、「イランとイスラエルの紛争は、技術力と地政学におけるパワーの衝突を浮き彫りにしている」。技術力については核兵器に典型的だが、地政学的に考えれば、実は、イランには地政学上の大きな利点を持っており、ヨルダン川と地中海との間の小さな領土しかもたないイスラエルはかなり不利だといってよい。「軍事革命において技術はますます重要になっていくが、地域紛争の将来を考えるうえで地政学的な要因は依然として不可欠である」という。

こうしたイランの方向性を考えるとき、核武装についてのイランの動向がきわめて重大なものになっていくのは明らかである。なかにはイランの核武装について、同国の技術力が高くないことから見れば、専門家の中には「イランがウランを用いて実用的な兵器を作るには最大1年、さらにミサイルに搭載するにはさらに長い、1年から2年かかるとしている。これは常識的に考えれば自然な発想だと思われる。
しかし、同じフォーリン・ポリシー電子版10月10日付のグレゴリー・ジョーンズとヘンリー・スコルツキーによる「イランはあなたが考えるより早く核兵器を製造する可能性がある」は、「イランは数か月のうちにミサイルに搭載可能な弾頭を完成させ、さらに配備する可能性すらある」と警告している。それどころか同記事は、米国務省長官のブリンケンなどが主張しているように、1週間あるいは2週間で初の核弾頭を完成させることですら不可能ではないというわけである。本当だろうか。

同論文はさまざまな観点からイランが思われているよりずっと早く「核保有国」になってしまうと論じているが、その最大の論拠を、「戦争体制にある国家の兵器開発時間は、平時と比べて驚くべきレベルで短縮される」という歴史的事実においている。何よりもそれを証明しているのが、アメリカのマンハッタン計画であり、必要な濃縮ウランが完成してから、2週間弱で広島に投下されているというのである。
そんなことがなぜ可能になったかといえば、核爆発を起こせるウランの開発と、それを入れる部品の組み立ては、同時進行できるからだという。「兵器の部分、つまり核分裂物質の爆発を引き起こす部品の製造とその組立は、どの段階でも核分裂物質を使用する必要はないので、ウランの製造と同時進行で作業を始めて完了できる」。もちろん、それだけではない。アメリカは核兵器開発の最初の国だった。しかし、いまやこれまでの技術は蓄積されており、それらの多くを応用すれば、驚くほどのスピードが可能だというわけだ。
もちろん、そう簡単ではないとの議論は根強い。イランの核開発が滞っていたのは、イランの諜報機関が脆弱なためであり、開発が進むたびに、さまざまなルートから入ってくるコンピューター・ウイルスが、複雑な施設のコントロールを破壊するのだという説も有力である。また、強力なスパイ網を持つイスラエルは、いつどこでもイラクの核開発施設を爆撃できるともいわれる。しかし、そんな国家であっても昨年10月7日のハマスによる襲撃は阻止できなかった。イランに独自の核兵器完成にいたる可能性がないとはいえないだろう。