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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプ当選を祝福したゼレンスキーの本音;ウクライナの多くの高官がトランプ勝利を期待していた

トランプが再びワシントンに返り咲くことが決定したことで、ウクライナのゼレンスキー大統領は何を思っているのか。ついに同国がプーチンの野望を跳ね返す道が断たれたと思い、失意の沼に落ち込んでいるのだろうか。そうではないとの説もある。これまでのバイデン大統領の煮え切らない「支援」と「拘束」から、抜け出すチャンスが生まれたと、実は喜んでいるのではないのかというのである。


そうした見方が強まっている発端となったのは、他でもないゼレンスキーが当選を確実にしたトランプに対して、祝福するメッセージをXに投稿したことだった。しかし、それまでも、ゼレンスキー政権による戦争継続とプーチンの打倒は、そもそも無理ではないのかとの観測は少なくなかったことを思い出すべきだろう。

経済誌ジ・エコノミスト11月7日付は「ゼレンスキーがトランプの勝利を歓迎する理由」は、読んでみて単なる飛ばし記事だとは思わせない内容を含んでいる。前出のゼレンスキーのXへの投稿「トランプ大統領の断固たるリーダーシップのもと、強いアメリカの時代が到来することを期待している」とのメッセージは、本当にゼレンスキーが望んでいることが述べられていると受け取ったほうがいいと同誌は示唆している。


同誌はさらに「トランプの勝利は、良くて血みどろの膠着状態、最悪の場合には敗北という、ひどい状態から、ゼレンスキーが抜け出す道を開く可能性がある」とまで述べている。トランプが選挙中に放言した「24時間以内に戦争を終わらせる」が実現するわけではない。しかし、同誌の見るところトランプはすぐにウクライナを見放すことはなく、すでに少なくとも2つの停戦案が米共和党内にはあるという。ひとつがヴァンス副大統領の「紛争凍結、ウクライナ中立」という案、もうひとつがトランプ政権の国務長官マイク・ポンペオの「軍事・財政支援、ウクライナNATO加盟」という案である。

そのいっぽうで、ウクライナの現状は悲惨なものがある。ロシアはいまも複数の戦線で進撃を加速させており、ウクライナドネツク州クラホベ周辺から撤退するのは時間の問題だとされている。また、ロシアの徴兵が順調に継続しているのに、ウクライナの徴兵は目標の3分の2をやっと達成しているような状況だ。「ウクライナの上級司令官は、前線で士気が低下している事実を認め、参謀本部の情報筋はすでに兵士のほぼ5分の1が戦線から逃亡している」という。

ジ・エコノミストより:いまこそゼレンスキーの本音を知るべきだ


2019年の政治スキャンダルが発覚した当時、ウクライナ外務大臣を務めていたヴァディム・プリスタイコは、トランプが多くの問題解決に忙殺されているあいだに、ゼレンスキーはトランプ新政権に可能な限りの要求をしておくべきだとコメントした。そうしないかぎり、先にロシアのほうが動きだすことになると警告している。「ロシアは何かやろうとしている。たとえば、送電線を破壊し、指導者の暗殺をも企てるかもしれない。これからの3カ月は恐ろしい時期となるだろう」。

アメリカ大統領の選挙戦が行われている間も、切迫した状況にあったウクライナの政府内部では、当然、強い葛藤が生まれていた。同誌によれば「トランプがウクライナに対して、支援軍需物資の引き揚げを行うと脅しをかけていたにもかかわらず、政府高官の多くがトランプの勝利をひそかに望んでいたと言うと驚く人は多い。しかし、それはウクライナの内情がいかに悪化したかを示すものでもあった」。バイデンの路線が続いて生命維持ぎりぎりの援助を続けてもらうより、いっそトランプのような型破りな指導者に、支援を打ち切られてしまうほうが、ウクライナにとって未来が開かれると思った高官が少なくなかったということである。


ここからは私見だが、そもそもウクライナ政府およびゼレンスキーを、「自由と民主主義を西側諸国の支援のもとに実現しようとしている」(フランシス・フクヤマ)などと西側的な願望を込めて見る限り、ウクライナを巡る状況がどのように変化していくのかを見抜くことはできない。ウクライナという東欧のきわめて微妙な地域に位置する国については、良くも悪くも東西の対立のなかを逞しく場合によれば狡猾に生き抜いてきた、国家とその指導者たちとして見直すことが必要だろう。

ウクライナの歴史に残るような「英雄」は、ほとんど例外なく権力の頂点にあっても苦しい妥協を強いられるのが普通だった。侵攻されるまで国内の人気とりのためにロシアを挑発していたゼレンスキーは、その点あまりにも軽率だったといえる。これからもこれまでもそうだったように、他の国での大きな変化が、この国における政治と政治家に何をもたらしても不思議ではないのである。

 

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