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東谷暁による「事件」に対する解釈論

イスラエルはイランの核施設を攻撃していた;アメリカの要請など無視するネタニヤフの暴走

イスラエルが10月に行ったイランへの報復のなかで、核施設の「特定の構成施設」を攻撃したと、ネタニヤフ首相が議会で演説した。これはあきらかにバイデンを「卒業」して、トランプに「入学」したということで、アメリカ政府はイランの核施設と石油施設は攻撃しないようにアドバイスしていた。もちろん、いまのネタニヤフにそんな牽制が効くわけもなく、これから好き放題をしても大丈夫と踏んでいるようだが、それは必ずしもイスラエルのためにならないだろう。


イスラエルベンヤミン・ネタニヤフ首相は、月曜日(19日)、米国がイスラエルにイランへの報復攻撃に限定を設けることを要請していたにもかかわらず、先月(10月)の報復空爆のさいに、核開発に関係する施設への攻撃を行ったと発言した」(フィナンシャル・タイムズ19日付)

「それは秘密などではない。われわれの攻撃を受けたイランの特定構成施設が存在しているのだ」と、イスラエルの国会であるクネセトで発言したと、イスラエルのメディアは伝えている。このさい、ネタニヤフはバイデン大統領には触れずに、ホワイトハウスの助言に逆らって行動したことを示唆して、むしろアメリカに逆らうことのできるイスラエル首相であることを誇示したとフィナンシャル紙は述べている。


ネタニヤフはその攻撃の詳細は述べていないようだが、ネットメディアである「アクシオス」は、イスラエルの攻撃には核兵器の起爆に必要なプラスチック爆弾を作るための特定の場所が含まれていたと報じている。フィナンシャル紙によれば、特定の瞬間に核物質を同時に爆発させて圧縮するために、高度に精密に設計されたプラスチック爆弾が必要なのだ。

イスラエル自身は自国の核兵器保有を公式に述べたことはないが、その数は数十基にのぼるといわれている。これまでも「唯一の中東での核保有国」としての地位を守るために、1981年にもイラクの核施設をジェット戦闘機で破壊したことがあった。アメリカはイランだけでなく、他の中東諸国や核保有国を刺激しないように、今回のイスラエルによるイラン空爆のさいにも核施設を除外することを助言していた。


しかし、ネタニヤフと宗教的右派は、自分たちの独立性を侵害されることには我慢ができなくなっており、バイデン政権はすでにレイムダックとなっていることを前提として、後見国の助言を無視したものと思われる。来年、トランプ政権が生まれれば、「これまで最もイスラエル寄りのアメリカ大統領」であるトランプが後見人となるので、もうやりたい放題になってしまうのではないかとの心配も生まれている。

しかしながら、いまイスラエルが進めている「大イスラエル」構想のような侵略的版図拡大には、たとえトランプが指名したアメリカの国防相が同意しても、実務レベルの高官たちがそう簡単に従うとは思えない。中東が急激に不安定になれば、こんどは東アジアに緊張が生まれるわけで、アメリカは政治および軍事において二面作戦をせざるを得なくなる。さらに、ウクライナへの対応を誤れば、東欧もさらに不安定になり三面作戦に陥る危険もある。これは馬鹿げた選択だろう。


そもそも、いくらトランプが「アメリカ・ファースト」で、自国中心の国際政治を展開しようとしても、すでにアメリカのパワーは冷戦時代や冷戦終結直後からはかなり後退している。実は抑止力からみても、それほど余裕があるわけでもないのだ。さらに、三面作戦に迷い込んでいけば、さすがにアメリカ国内が動揺するだろう。ソーシャル・メディア的な政治が機能するのは、せいぜい国内政治が限界で、その揮発性の高い幻想を国際政治に適応しようとすれば、たちまち政権は現実に直面して、危機にあることを知らざるをえなくなる。

もちろん、トランプ次期大統領は第三期を望まないといっているから、これから四年だけアメリカ国内と世界をひっかきまわして、あとは引退すればいいと思っているのかもしれない。しかし、いまの政権中枢のつくりかたを見ていれば、これは早晩、機能不全を生じさせることになるのは明らかだ。トランプが余裕あるホストとしてふるまえるゴルフコンペとは違うことを、あらためて味わうことになるだろう。しかし、アメリカも世界もそうなってからでは、被害がおおきすぎるのである。トランプの興奮状態が続いて、フィジカルな条件がこの暴君の活動期間を、縮小してくれることを祈るしかない。