アメリカと英国は自国が供与した長距離ミサイルを、いまさらウクライナに使わせて戦局が変わるかのような幻想を世界に与えている。しかし、肝心のウクライナ国民はすでに戦争をやめたくてしかたがないのだ。すくなくとも半数以上の人がこの戦争が勝てるとは思っていないし、NATOに入れてもらえるという希望を持っている人も急減している。ろくろく支援もせずに実現不可能な夢をぶら下げて、正義ばかりを口にしていたバイデンは、ここでもまったくの敗北を喫している。
英経済誌ジ・エコノミスト11月20日付は「ウクライナ国民の大半は、もう、戦争の終結を望んでいる」を掲載している。悪い冗談などではないのだ。過去30日間でロシア軍はウクライナの領土645平方キロを占領してしまった。ギャラップの調査によれば、ウクライナ人の52%ができるだけ早く戦争を終わらせる交渉を始めて欲しいと思っている。これは1年前の27%から2倍近くの増加であって、いかに急速に戦意が失われたかが分かる。
そのいっぽうで勝利するまで戦うべきだと考えている人は、2022年の63%から38%にまで下落している。こうした数値が背景にあって、ウクライナだけでなく世界に戦いを迫っていたゼレンスキー大統領は、すでに紹介したように、まるでウクライナの身売りのような「勝利計画」なるものを持ってトランプにはせ参じているが、トランプのほうは「24時間以内にウクライナ戦争を終える」といっていた手前もあって、反応はきわめて鈍い。
勝つまで戦うべきという人が急速に減った
データだけならもっとある。首都キーウではギャラップによれば、ロシアへの抵抗継続への支持が2022年以降、39%も下落している。前線に近い東部にいたっては、戦争の継続を望んでいる人が27%に過ぎず、いっぽう、もうやめて欲しいと思っている人が63%にも上っている。ロシアはすでにウクライナの領土を19%奪取しているが、その土地を譲渡することに反対なのは40%に過ぎなくなっている。
同誌によれば、この「戦争疲れ」の原因は、まず、膨大な人的・経済的損失が国民に重くのしかかっていること、また、西側諸国への失望感や支援のやり方への不満なども大きいと指摘できるという。こうした失望や不満が典型的に現れているのが、NATO加盟に対する期待の低下で、加盟すべきだという人は昨年は69%だったが、いまや51%にまで落ちている。ゼレンスキーはいまもNATO加盟を希望しているが、ロシアのプーチン大統領は「それは超えてはならない一線である」と脅し続けている。
いつになったらNATOに入れるのか?
いったい、こうなってしまったのは誰のせいなのか。アメリカのバイデン大統領のミスは、ロシアが侵攻する前年から始まっていて、41同盟国を駆り立てて黒海で本格的で大規模な軍事演習を行ったことがかなり大きいだろう。もちろん、プーチンが先に手を出したというのがロシアが非難される理由だが、それ以前になぜそんな「世界制覇を目指している」「邪悪な指導者」で「ウクライナの次にはヨーロッパに攻め込む」ような独裁者を、継続的に挑発し続けるほうも、どうかしていたと言えないだろうか。
ゼレンスキーは、ロシアはちゃんと(彼の母語のロシア語で)話し合えば自分のプランを理解してもらえると思っていた、呑気な小オルガルヒ的成功者で、喜劇役者兼タレントにすぎなかった。彼がいくら勇気ある孤独の指導者を演じたところで、現実ははるかに冷たく硬く重いもので、テレビスタジオのように、美女たちにあふれ、光や重力すらも(見かけは)自由にできる空間ではない。いまさら開戦当初の議論を蒸し返すのは、日本の戦略家とか外交評論家たちが、アメリカの理想主義者の考えた「自由と民主のトリデ=ウクライナ」を口にするのは、恥ずかしいのでもうやめてほしいからだ。
ウクライナは勝つまで戦うべきか?
ウクライナの歴史を少しでも知っていれば、この国の「英雄」のほとんどは、国民の気分が高揚したときに登場して称賛されるが、大国に挟まれて動きがとれなくなり、やがて妥協をくりかえして国民に「裏切り者」と罵られる。しかし、これも表と裏の関係にあり、素性のあやしい英雄を持ち上げたのもウクライナ国民であり、また、期待どおりに安楽をもたらさないと裏切り者と呼ぶのもウクライナ国民だった。
それは根本的には、残念ながら動かしがたい、地政学的なウクライナの位置によるものだが、それを直視するのは外国人にとってもつらい。しかし、今回もすでに国民の数百万人が祖国を脱出してしまって、多くの男性が兵役逃れをやっていることを知れば、この国に特有の傾向だとして冷静に見なければならない。この繰り返されたパターンがすでに始まっている。ゼレンスキーはこれからどうするのか。国外脱出するにしてもどこが受け入れてくれるのか。タックスヘイブンにある彼の少なからざる資産はどうなるのか。もう、そこまで考える時期に来ているのではないのか。
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