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東谷暁による「事件」に対する解釈論

中国の核弾頭は、本当は何発あるのか?;ペンタゴンのレポートが示唆する核の現実

中国の核弾頭が600を超えつつあるとかのニュースが流れているが、おそらくこの数字も少なめである可能性がある。中国は第一撃を受けたさいに報復する「報復核」に限定するというような説明をしてきたが、プロたちはそんな主張を信じたことはないだろう。信じているプロがいるとすれば、その人は「もぐりのプロ」であるか、あるいは核理論に凝り固まっていて、リアリティの感覚をもたない抽象的理論の崇拝者だと思われる。


まず、いまの報道の傾向から見てみよう。米紙ワシントン・ポスト12月19日付の「中国は軍隊の腐敗にもかかわらず軍備の拡大が速いとペンタゴンが警告している」との記事で、まず、人民軍全体の強化の話を述べて、それからその一環として「2020年には200発だったが、今年の5月には600発を超え、おそらく2030年までには1000発を超えることになるだろう」と述べていて、全体の強化が議論の中心となっている。

それに対して、英経済紙フィナンシャルタイムズ12月19日付は「中国は急速に核武装を拡大しているとペンタゴンはいっている」というタイトルで、すぐに「人民軍の核弾頭の数はわずか1年の間に500発から600発に拡大している」という事実を冒頭でまず述べている。「ペンタゴンの『中国軍事レポート年刊』は、人民軍はこの12カ月間の間に核弾頭数を20%も拡大しており、2030年までに使用可能な核弾頭を1000発にまで引き上げるだろう」。


ついでに米経済紙ウォールストリート・ジャーナルは12月19日付は「中国軍の腐敗はその軍備の充実に脅威になっているとペンタゴンは言っている」という記事を掲載しており、軍事組織の汚職をひとくさりやったのちに次のように述べている。「人民軍はいまや600発を超える核弾頭を持っており、2030年までには1000発を超えると、ペンタゴンのレポートは述べている。2020年には200発程度だといわれていた。ちなみにアメリカは3708発を所有している。さらにレポートは、中国はいま400基の大陸間弾道核ミサイルを装備していると推定している」。

200発という数値は長い間、まるで正しい数値であるかのように扱われてきたが、これは何とかという学者さん団体が発表したもので、それは中国が発表したものをそのまま素直に受け入れるようなものだった。しかし、中国政府が何と発表しようとも、中国には増産する能力があるわけで、さまざまな推計がなされ、数千発が奥地の砂漠の地下に隠されているという説もあった。たとえば、デイリー・メール・レポーター電子版2011年12月1日付は「3000基の核兵器がトンネルに隠されている」と報じている。さらに、中国は国際法で禁じられた多弾頭ミサイルを製造しているだけでなく、水爆ミサイルも実はもっているとの話も真剣に論じられている。


いずれにせよ、第一撃を敵に発射されるとしても、「十分に損害を与えることができる報復核」を保持しておけば、いかに小国であっても核大国は先に攻撃することはできないという説を信じるわけにはいかない。これはあまりに数学的な均衡概念によるもので、これまでそれが確実に成立すると証明した核理論家は存在しない。存在しているといいたがるのは、自分がそれを信じたいからで、これまで起こった核攻撃は日本に対する2回しか、歴史的経験としては存在していない。現実には「自国は十分の核兵器を備えているから、何をするか分からないぞ」と脅すエスカレーション示唆戦略だけが有効だと論じる核戦略理論家も存在している。これは北朝鮮の核開発の中心的思想でもあるだろう。

もうひとつ、中国は組織の腐敗や経済の低迷があれば、核弾頭やミサイルの増加ができなくなるというような神話があるが、これはもちろん間違っている。中国という国の核兵器戦略は、朝鮮戦争のさいにアメリカに核によって威嚇されたときに生まれた「たとえ1皿のスープを2人ですすっても、1本のズボンを2人で履いても、核兵器の開発はやめない」という毛沢東の言葉に言い尽くされている。アメリカの軍事専門家たちやジャーナリストが、汚職や不況があれば勢いが落ちると考えるのは、無防備な状態で核による威嚇をされた歴史的経験がないからにすぎない。