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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプ政権が抱え込んだ爆弾;MAGA派とTECK派の根本的な矛盾と対立

正式に大統領に就任する以前に、ドナルド・トランプはすでに政界に混乱を引き起こしている。とても適任と思えない人間を指名して、アメリカ国内だけでなく世界中を震撼させているのだ。しかも、それは政治についてだけでなく、経済についてもこれからの予想を立てにくくさせている。その根本にあるのは、政治的スローガンMAGAへの熱狂者と、トランプが政権に入れようとしているTECKの勢力との利害が最初から対立していることである。


経済誌ジ・エコノミスト1月4日号は、ちょっと気になる記事を掲載した。「テックがワシントンにやってくる。文化の衝突に備えよう」というタイトルの社説で、最先端技術のトップたちが政権に参加することで、「アメリカを再び偉大にする」の取り巻きたちと軋轢が生まれるのではないかというのだ。たしかにハイテクでがんがんやってきたイーロン・マスクなどと、強硬派としてならしてきたマルコ・ルビオなどとは、相性がよくないと憂慮するのは当然だろう。同誌は、それだけでなく具体的な政策でも対立が生まれるという。

たとえば、移民についての政策では、それぞれの利害は大きく異なる。「トランプが副主席補佐官に選んだスティーヴン・ミラーは自他ともに認めるMAGA(アメリカを再び偉大に)の熱狂的支持者だが、彼は反貿易、反移民、反規制を主張しているだけでなく、彼を支持する基盤が同じ主張なのだ。そのいっぽうで、TECKの大物で世界一の金持ちイーロン・マスクなどは中国を電気自動車の製造・販売の重要拠点としており、反貿易に賛同するわけにはいかないだろう。利害の分裂はそれだけにとどまらない。

「MAGAは移民がアメリカ人の仕事を奪うことを恐れている。それに対してTECKは国籍に関係なく最高の人材を求めており、そもそも自由主義的傾向があって政府が介入することを嫌うのである。MAGAは外国人が貿易を利用してアメリカを騙していると考えているのに対し、TECKは人材、資本、習慣が流動化することから利益を得てきた。こうした対照的な勢力がワシントンで衝突すれば、その矛盾と葛藤は政治目標に動揺を生み出すだろう」

同誌が特に注意を促している点のひとつは、こうした問題についてTECK派の人間たちは「技術的な問題」として捉えがちだということである。しかも、それが政治的に中心的な問題になったとき、TECK派はそれを政治的に解決する経験がないという。つまり、このレベルまでは受け入れて、さらなるレベルアップはやんわり拒否するとか、しばらく時間稼ぎをして、事態が変わるのを待つといった「政治」ができないのではないかというわけである。にもかかわらず、重要な問題でトランプは自分の好みによって、妥協のできない(イーロン・マスクなどの)TECK界の大物を支持する可能性も高いという。


こうした憂慮すべき点を並べておきながら、ジ・エコノミストの最近の傾向なのだが、締めくくりの部分で急に楽観的になり、「この悲惨なシナリオはすでに決まっているわけではない」と言い出す。「トランプのチームの各派閥はたがいに衝突するのではなく、ある面では妥協し、別の面では補強しあって、おそらくアメリカによい結果をもたらすだろう」などと楽天的な未来を語り始めるのである。これは正月だから縁起のよいことを敢えて書いているのかもしれないが、もしそうだとすれば、厳しく現実的な洞察と指摘を求めている読者にとっては、とんでもない裏切りとなるだろう。

そして、最後の段落では「それは無理な話に聞こえるかもしれないが、株式市場がトランプ政権を妥協的な協力に向かわせる可能性もある」と付け加えている。つまり、トランプを含めてMAGA派もTECK派も株価には敏感で、さらに高くなることを望んでいる。この共通認識があるかぎり、経済問題においては対立を回避できるのではないかというわけだ。しかし、この社説を書いている記者あるいは編集者は、すでにアメリカの株価は異常な高値に達しており、それは政策で支えることができるかどうかは、怪しい段階にあることを忘れているようである。やはり、危機はすぐそこにあるのではないか。ワシントン炎上も近いのかもしれない。