コロナ禍がアメリカ社会の「信頼」を大きく損傷させた。それは間違いない。では、どのように? それは何よりも医療専門家や医療保健機関への不信となってあらわれた。そしてそれは恐らく、トランプ大統領の復活に貢献したと見てよいだろう。さまざまなデータがあるが、それを見ながらアメリカの信頼が下落したとだけ見るべきではない。それはSNS選挙に翻弄されている我が国も、同じような危機にさらされているからだ。

英経済誌ジ・エコノミスト1月28日号が「どのようにコロナ禍はアメリカの信頼を危機に陥らせているか」を掲載している。ここでは8つのグラフで、アメリカ国民がいかに医療専門家や医療保健機関に不信を募らせるようになったかが表現されている。そしてそれは医療の政治化やメディアの党派化という事態が、きわめて大きなファクターであることが明らかにされている。

まず、最初のグラフはトランプに投票した人と投票しなかった人で、どのように信頼の変化が異なるかで、科学、連邦政府、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)、世界保健機関(WHO)、社会的信頼、ニュースの9項目において見ている。「ミラノにあるブッコーニ大学のアーンスタイン・オースベとその同僚たちは、諸制度への信頼は2020年4月のコロナ禍第一波から同年11月の第三波まで平均して低下している。この低下は2020年の大統領選挙でトランプに投票した人たちの間で特に顕著だ」。

2つ目のグラフは諸機関への信頼度のグラフである。長期的に見ると、コロナ禍は信頼低下を引き起こしたわけではないが、それを加速させたことは明らかだ。ギャロップ社の世論調査によれば、1970年代からすでにアメリカにおける諸機関への信頼は低下していた。特に、ニクソン大統領が引き起こしたウォーターゲート事件や、同時多発テロ事件のさいには急激な下落がみられる。2020年の急落はコロナ禍だけによるものではないが、1月6日の議会襲撃事件、最高裁による堕胎禁止への転換、そしてトランプへの訴追などが、司法制度への信頼低下を説明するだろう。

3つ目のグラフは、共和党と民主党の支持者別で見た、医療のリーダーたちへの信頼低下を示している。コロナ禍の発生は、公的医療機関のトップたちを政治家たちへと接近させることになった。彼らが採用した対策がたとえばロックダウンやマスクの着用といった、十分に効果のあるものだったにもかかわらす、人気のないものであったことから、医療そのものや医療機関への信頼を低下させることになったわけである。このグラフで明らかなのは、信頼低下が長期なものであることと、コロナ禍以降については共和党支持者と民主党支持者では信頼度が大きく異なったことである。

4つ目のグラフはCDCからの情報を、どのメディアで受け取ったかでみた信頼度の違いが明らかになっている。「CNNやMSNBCから情報を得た人たちは、CDCからの情報にますます信頼を深めることになったが、FOXニュースから情報を得た人たちは、信頼度をさらに低下させていったことが分かる。なお、バイデン政権は2020年の大統領選のさい、『ネーチャー』『サイエンティフィック・アメリカ』『ランセット』などの科学誌を推奨したために、科学者は政治的だとの印象を与えることになったという。

5つ目のグラフは、共和党と民主党で人物の信頼度がどのように異なるかである。注目すべきはここでもバイデン政権で首席医療顧問を務めていたアンソニー・ファウチだろう。当然、共和党支持者は信頼しないし、民主党支持者は信頼していると予想がつくが、グラフで見ればあまりにも差が大きい。同様に、反ワクチン主義者(本人は否定している)のロバート・ケネディ・ジュニアは両方の支持者にとって困り者だが、逆に共和党支持者の信頼がけっこうあるのに驚く人も多いだろう。

6つ目のグラフは幼稚園児のワクチン接種忌避者数のジャンプ的増加が分かる。「ロバート・ケネディ・ジュニアなど長い間のワクチン反対運動によって、コロナワクチンや他のワクチンを忌避する人たちが多くなった」。そのなかでも、幼稚園児の忌避者(主に両親がそうしているということだろう)がジャンプしている。十分に根拠のあるワクチンでも、コロナ禍によってアメリカの反ワクチン主義者は急増している。一般論になるが、あるデータでは、67%の民主党支持者が科学者は政策決定を助けていると考えており、64%の共和党支持者はそうしたことは言えないと答えている。

7つ目のグラフは23カ国でのWHO支持率を示している。アメリカ国民はロシア並みにWHOを信頼できないとしており、すでにトランプ大統領はWHOからの離脱を表明した。「この信頼性の欠如は、ワクチン懐疑者の増加とともなって、将来の世界規模の保健危機に対して、アメリカの対応力を削ぐことになるだろう」。さらには、アメリカの国内の感染症の蔓延が、世界中に脅威となる事態が予想される。こうなれば、少なくともトランプの在任中に、アメリカで新しい感染症が猖獗をきわめないことを祈るだけである。

8つ目のグラフは先進7か国における国家機関に対する信頼度の変化を示している。2006年から2024年までの変化だが、かつては世界でトップクラスの信頼を誇っていたアメリカ合衆国は、いまやかつてのイタリア並みの信頼度となってしまった。しかも、他の先進国がかろうじて信頼を高めているというのに、この国だけは急激に悪化している。そして困ったことには「トランプの大統領就任1週間においての行動と発言は、さらに悪化させるもの以外の何ものでもないのである」。
ざっと見ていただいたが、これを対岸の火事とすることは危険だろう。日本においても激しいSNS化のなかで、十分に根拠があり信頼に足るものが激しく批判され、でたらめで何の根拠もなく信頼に値しないものが圧倒的な政治的勢力となる。したがって、ここで示されたアメリカの信頼の下落は単に医療・保健の分野にとどまっていないだけでなく、我が国における近未来の信頼低下と見る必要があるだろう。