トランプ政権のやりかたが、だんだん明らかになってきた。25%の関税を課すといっていたメキシコに1カ月の猶予を与えると言い出したが、これが彼のいう「ディール(取引)」というものらしい。脅しつけて、それから交渉を始めるという、昔ながらのならず者の常套の手口を、世界規模でやるというわけだ。それで例えば5%くらいのバーゲンを与えつつ、いくつかの分野で20%の関税というあたりが、落としどころになるわけである。

「俺たちの関税戦略というのは、最初にまずぶん殴って、それから話をつけるというものだよ」と、トランプ政権の有力な経済アドバイザーのひとりが、英経済紙フィナンシャル・タイムズの政治コラムニスト、ギデオン・ラックマンに教えてくれたという。「この種のマッチョ的手口がこのごろワシントンでは流行っているようだ」とラックマンはコメントしているが、この流行りはそれほど長くもたないことも指摘している。
「アメリカ大統領の思い付きで繰り出されるこの種の『一発殴って、それから話を聞いてやろう』という戦術は、ターゲットにしている獲物となる国ぐににとってだけでなく、アメリカ自身にとっても、きわめて危険なものといえよう。(獲物とされる国ぐには、関税を課されるだけでなく、これまでの経済戦略が崩壊するだろう)アメリカにとっては潜在的な経済リスク、つまりインフレの上昇と産業の混乱が待ち構えている」

しかも、ラックマンが強調しているように、その帰結は政治的なアメリカの孤立なのだ。いまの関税戦略を続けていけば、西側同盟の結束を破壊する恐れが多分にある。「トランプは、アメリカに新たな脅威を感じている多くの国ぐにが、反アメリカ・グループを形成する種を、まき続けているのである」。
トランプのやり方はまったくデタラメでそのとき次第なのだ。たとえば、トランプが任命した国務長官マルコ・ルビオや安全保障担当補佐官マイク・ウォルツは、中国をいかに封じ込めるかが、アメリカが直面している中心的戦略問題だと述べている。ところが、そのいっぽうでトランプは中国、カナダ、メキシコに高い関税を課すという政策を打ち出している。中国を敵にするだけでなく、政治的に味方であるはずのカナダとメキシコに、同じ関税戦略で対応して、味方をアメリカの敵にしようとしているのである。

また、ヨーロッパの国ぐにはグリーン政策のために中国製の電気自動車、バッテリー、太陽光パネルなどを大量に輸入しなければならない。と同時に、ヨーロッパとしてはアメリカが関税政策を続ければ、市場としてのアメリカを失うことになるかもしれないので、ますます中国市場を確保せざる得なくなるだろう
「影響力のあるヨーロッパ人のなかには、ヨーロッパにとってより大切なのはアメリカか中国かという問いを立てる人もいる。こうした問いかけは、数か月前なら冗談に聞こえたかも知れないが、トランプが大統領になってからは、かなり現実的で深刻な問いに変わってしまった」

加えて、いま新展開が予測されるウクライナ戦争についても、トランプのアメリカは停戦を模索するようになっており、これまでのアメリカ+西側vsロシア+中国という構図が不安定になり始めている。同紙の記事によれば、トランプはウクライナのレア・メタル(希土類)の権益を狙っているといわれ、その見返りに軍事的支援を続ける可能性もあるとのことだが、ここでトランプの動き次第で世界の構図は大きく変わる。
「中国の貿易主義とロシアのウクライナ戦争に対する北京の支持は、中国とEUとの和解にとっては大きな障害になっている。しかし、トランプがウクライナを放棄し、北京がロシアに対して強硬な姿勢を打ち出せば、ヨーロッパが中国に接近して新たな道がひらかれることになるだろう」

最後にラックマンがメキシコ問題についてまとめているので、この点についても付け加えておこう。多くの読者が予想するように、トランプがメキシコに25%の関税を課すという戦略はまったくナンセンスなものだ。「関税によってメキシコが深刻な不況に陥れば、アメリカに向かう窮乏化した不法移民たちは増加するばかりだろう。また、輸出品に関税が課されない麻薬カルテル(一大勢力だといわれる)の勢力もますます巨大化するだろう」
このデタラメで危険なトランプ戦略に対抗する方法はあるのだろうか。ラックマンはこの点、かなりのマッチョ的な論を展開している。カナダとメキシコはちゃんとアメリカに対して報復すべきだ。なぜなら「あるヨーロッパの外務大臣が最近私(ラックマン)に言ったように、『トランプがあなたの顔を殴っても、あなたが殴り返さなければ、トランプはまた殴るだけのことだ』」からだ。
英国や日本のように、いま大型関税の話がない国は、安穏としていられるかといえば、それは間違いだとラックマンは述べている。「トランプ大統領が最初の関税戦争に勝利すれば、彼は間違いなく新しい獲物を探すだろう」。結局のところ、「トランプがアメリカに提案しているのは、アメリカの経済的孤立と西側同盟の崩壊である。それはアメリカの企業にとっても、また、アメリカ全体にとっても、経済的かつ戦略的にみて大惨事を生み出すだろう」。