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東谷暁による「事件」に対する解釈論

アメリカは友好国を失い孤立する;スティーヴン・ウォルト教授が予言する「世界の大転換」

トランプ大統領は就任以来、つぎつぎと新しい政策を打ち出して、世界を混乱に陥れている。なかには大胆さに快哉を叫んでいる日本人もいるようだが、トランプが打ち出す強圧的な行動が仮想世界の出来事でない限り、そうした人にも悪影響は及んでくるだろう。問題はこの超大国の独裁的行動は、いずれ限界に達するものなのか、それとも、限界など存在せずにいまのような暴挙を続けることができるのかということである。


ハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授は米外交誌フォーリン・ポリシー2月3日付に「国際関係論がトランプ2.0について予測するもの」を寄稿している。興味深いのは冒頭で「本来は別のテーマで書く事になっていたが、トランプが行っている悪行を無視することはできないので、トランプが実行しようとしている外交政策について書かせてもらいたい」と断っていることだ。

何を書く事になっていたのかは分からないが、ウォルトがこうまで言ってトランプの政策が生み出す結果は何なのか論じるのは、もちろん歓迎するところだ。全文を誰かが翻訳してもらいたいが、とりあえずここで概要だけでも伝えたい。まず結論からいえば、ウォルトが依拠してきた「勢力均衡論」あるいは「脅威均衡論」で見れば、多くの国がアメリカと緊密に結びつくことに利点を見出せなくなり、アメリカに従属的であった国ぐにですら、トランプの気まぐれから自国を守るために、他の戦略(たとえばアメリカではなく別の国と接近する)を模索するようになるというものである。


アメリカの「リアリスト」と呼ばれる政治学者たちは、国際政治を複数の国家のたえまない勢力均衡の繰り返しであると捉えて、その模索が対立や戦争をなくしはしないものの、最悪の事態を回避するものと考えて来た。ウォルトが中東政治などの詳細な観察と分析から得たのは、この均衡は国家間の勢力(パワー)の均衡と捉えるよりも、脅威(スレット)の均衡と考えるほうが理解しやすいということだった。より具体的にどう言えるかというと、次の本人の言葉を読んでみよう。

「中央権力のない世界では、一国だけが強くなることを憂慮する傾向がすべての国に見られる。というのは、その一国が自由に使える力をどのように使うか分からないからである。その結果、弱い国ぐにが力を合わせて強い国を抑制し、強い国が弱い国を征服または支配しようとした場合に、それを他の国といっしょになって打ち負かす傾向が強くなる。強い国が近くにあって、その国が他国を征服するための強力な軍隊を持っているとき、あるいは悪意をもっていると思われるときにはとくに、均衡させようとする傾向は高まる。この脅威均衡理論は、世界政治における顕著で永続的な変則的現象を説明するのにも役立つ」


たとえば、アメリカは第二次世界大戦以来、ずっと世界最強の経済大国、軍事大国だが、世界の大国と中位国のほとんどは、アメリカに対抗してバランスをとるよりも、アメリカと連携する戦略を選んだ。彼らはアメリカをなだめるために同国と連携したのではなく、彼らのすぐ隣にあって危険な野心を持っているように見える国(たとえばソ連)とバランスをとろうとした。その結果、アメリカの冷戦同盟システムは、ソ連と連携したさまざまなソ連の同盟国よりも、常に豊かで、軍事的に強力で、影響力が大きかったのだ。

ここで疑問が生まれると思うが、それほどアメリカが巨大だったのに、なぜ多くの国が脅威を感じて、アメリカに向けての対抗的な均衡勢力が生まれなかったのだろうか。もちろん、アメリカの同盟国もときにはアメリカの判断に疑問を呈することはあった。たとえば、イラク侵攻に対してはヨーロッパの中心的諸国が反対した。しかし、全体としてはアメリカを有用なパートナーと見なし、アメリカの優位性も容認してきた。それは、アメリカの民主党政権共和党政権も、NATOなどの多国間機関を通じて影響力を行使し、同盟国に圧力をかけているときでも、同盟国に対して一定の敬意をはらってきたからだったとウォルトはいう。


ところが、この点においてトランプ政権は大きく異なっている。「たとえば、カナダやデンマークなど、従来は親米的な国に対するトランプ政権の抗戦的なアプローチは前例のないことだった」。アメリカのパートナー国は、アメリカがもはや信頼できないだけでなく、アメリカが自国に対して悪意をもっていることも心配しなくてはならなくなったのだ。「アメリカがパナマ運河を奪還するとか、グリーンランドを征服するとか、カナダを51番目の州にするとか、すべての国が次は自分たちかと憂慮している」。

こうなってくると、アメリカの他の国との関係は変わってしまう。「脅威均衡理論が予想しているとおり、これらの国ぐにの一部の指導者たちはすでに、トランプの危険な政策に対抗するための協調的な行動を提唱し始めている」。たとえば、カナダの元財務大臣クリスティア・フリーランドは、メキシコ、パナマ、カナダ、EUの首脳会議を開催し、トランプに対する共同の対応策を策定するように求めている。また、エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連合、カタールパレスチナ自治政府、アラブ連合はガザ地区ヨルダン川西岸地区からパレスチナ人を排除することに反対する共同声明を発表した。


「これはアメリカの外交政策の大きな転換期である。アメリカがまるでロシアや中国のように行動し始め、新たな貿易戦争を企て続けるなら、アメリカと緊密な関係を持つメリットは薄れるだろう。アメリカに従属してきた国ぐにですら、アメリカの気まぐれから自国を守るために、リスクをなんとか回避しようとし、他の戦略を模索することになるだろう。要するに脅威均衡理論は、トランプ外交の急進的なアプローチは裏目に出て、トランプは短期的にはいくつかの譲歩を得るかもしれないが、長期的には世界的な抵抗が強まり、アメリカのライバルに新しいチャンスが生まれてしまうと示唆しているのだ」

ここまでがウォルトの中心的な議論だが、加えて、脅威均衡理論ではない別の理論に依拠すれば、もうすこし違った予測が行われる可能性も検討している。その理論とは「集合財理論」あるいは「集合行動理論」といわれるもので、いったん確立してしまった協調行動を変えるのは、さまざまなコストがかかりすぎて、きわめて難しいことを示唆するものだ。「トランプに対抗するための結集には時間がかかり、一部の国はただ乗りをして他の国が困難な仕事をすることを期待するだろう。そうした状況ではアメリカは国ぐにの分断を図り、個別に譲歩を与えることで協調行動を阻止しようとするだろう」。


とはいうものの、ウォルトはこの集合行動理論が示唆するようには進まないと考えているようだ。すでにウォルトが述べたように、このいまの世界を「脅威均衡」の状態から遠ざけたのは、アメリカの強い自制心と他国に対する敬意であり、世界の国ぐにはアメリカが約束を守ることを確信することができた。しかし、少なくともいまのトランプ政権においては、残念ながら、自制心を発揮し、他国を尊重し、そして約束を守るという姿勢はどこにも存在していない。

「わたしたちリアリストが何十年も警告しつづけ、過去の侵略者たちがわたしたちに思い出させてくれるように、他国を威圧し罰するために強硬な外交手段を用いる国家は、バランスへの抵抗や集団行動の障害をものともせずに強硬な行動を続け、最終的には友好国が減り、敵は増加し、影響力ははるかに小さくなるだろう。アメリカが最も近隣の国ぐにや長年の同盟国を疎外することなど永遠にありえないと思っていたが、まさにそれがいま私たちの進んでいる方向なのである」