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東谷暁による「事件」に対する解釈論

石破・トランプ会談の内実を読む;日本製鉄の「買収」が「投資」に変わった本当の理由

石破・トランプ会談の評価については、まだ詳細が不明なので控えるが、世界の報道からどのように受け止められたかについて見ることはできる。これもまた、かなりのばらつきがあるのだ。日本のSNSなどでは石破首相は、トランプに押しまくられ惨めなことになるとの見方があったが、終わってみるとそれほどのことはなかった。石破首相が堂々としていたなどとはいわないし、お追従も口にしていたが、トランプも気を遣っていたように見えた。しかし、話はすでについていたのだろう。

日米首脳会談のひとこま


ここでは新聞報道に現れた日米首脳会談の、日本製鉄によるUSスチール買収についての部分を中心に見ておこう。まず、米経済紙ウォールストリート・ジャーナル2月7日付だが、「トランプがUSスチール買収の見直しに扉を開いた」として、投資に切り替えさせたことを強調している。「トランプ大統領は、日本製鉄によるUSスチールの買収ではなく、同社への投資を行うことになる緊急同意を支持したと語った」。

「日本製鉄はそれを投資として行うのであって、もう、買収はなくなった」と、トランプは日本の石破茂首相とともに臨んだホワイトハウスでの記者会見で述べた。「そもそも私は、買収は望んでいなかった。しかし、投資ならば大歓迎だ」。詳細については、このときには明らかにされなかったが、トランプは日本製鉄のリーダーと来週にも会って話し合うと語っている。

このままではアメリカは炎上するのではないかと思われる


さらに同紙は、USスチールのデイヴィッド・ブリットCEOが木曜日にトランプと会って日本製鉄との取引について議論していることを指摘し、さらに日本製鉄の森高弘副会長が米下院議員たちと会うために、先週からワシントンに来ていることを述べている。そのうえで、USスチール労働組合の反応について「トランプの日鉄のUSスチール買収に反対するというコメントは、USスチール労働組合を喜ばしてはいなかった」と述べている。

USスチール労働組合は金曜日の日米首脳会談で「買収」は「投資」に変わったが、組合幹部のひとりは、それにも反対していると述べて、かなりキツイコメントをしている。「日本製鉄はこれまでの歴史をふりかえっても、アメリカ市場でダンピングをして、われわれを騙してきたのだからね」。

日本製鉄に買収してもらいたいUSスチール社員たちも多かった


こうしたトランプの新機軸を評価する報道に対して、英経済紙フィナンシャルタイムズ2月8日付は、タイトルが「ドナルド・トランプは日本製鉄にUSスチール買収案を取り下げさせた」で、買収案が結局潰れたことを強調している。冒頭も「ドナルド・トランプは日本製鉄がUSスチール買収計画を放棄して、象徴的なピッツバーグの工場に『多額の投資』をすることになるだろうと述べた」という書き出しだった。

「金曜日、日本の石破茂首相と臨んだ合同記者会見で、トランプ大統領はUSスチールへの投資が見込まれるのは『たいへん嬉しい』と述べ、来週には日本製鉄の人間と会うことになっていると付け加えた。『詳細については彼らがきめるだろう。……私は中継ぎをして調整するだけだ』」

お追従もしていたが、石破首相は頑張っていたほうではないのか


フィナンシャル紙は買収に反対していたUSスチール労働組合委員長のデヴィッド・マッカールにインタビューしている。「われわれ組合は日本製鉄がUSスチールに投資するという点について、いずれの企業とも、また行政とも、接触していない」とかなり不満気である。そしてウォールストリート紙と同じ部分のコメントを、前半の部分を補強して掲載している。

「われわれが心配しているのは、日本製鉄がUSスチールにいまも関心をもっているのかどうかということだよ。日本製鉄はこれまでの歴史をふりかえっても、アメリカ市場でダンピングをして、われわれを騙してきたのだからね」。この発言の引用で、ウォールストリート紙の組合幹部とはマッカールであったことが分かる。しかし、この組合がいまのUSスチールの危機に対して、いったい何ができるのだろう。そもそもUSスチールの経営そのものがダメになったから買収の話が進んだのであり、投資だけで経営を日鉄がやらなければ業績は向上せず、いったんは立ち直ったように見えても、結局、ピッツバーグの工場は閉鎖されることになるだろう。

思い切った経営の切り替えが必要だったはずだが……


では日本の新聞はどうだろうか。まず朝日新聞夕刊2月8日付だが「トランプ米大統領は7日、日本製鉄によるUSスチールの買収計画については『買収ではなく(日鉄は)大きな投資をする。私はそれで構わない』と述べた。これまで一貫して反対していたが、取引を容認しうる姿勢に転換した。日米首脳会談後の記者会見で述べた。トランプ氏は『(日鉄)はUSスチールを所有するのではなく、多額の投資をすることで合意した』とも語った」。ここで疑うべきは、トランプが本当に「転換」などしたのか、ではないのだろうか。もちろん、転換などしていない。

いっぽう、日本経済新聞電子版16時50分の「トランプ氏、日鉄から資金引き出し企図か『投資』協調」はどうだろうか。「日本製鉄によるUSスチールの買収計画への対応をめぐりトランプ米大統領が7日『買収ではなく投資』との新機軸を打ち出した。買収に反対する姿勢を維持しつつ、日鉄には交渉の余地があるとも解釈できる発言だ。期待を持たせながら、技術とカネをしっかり米国に投じさせる狙いが透ける」。

棍棒外交といわれるトランプの国際政治感覚


さすがにこの時間になると、同じ情報の繰り返しから脱して、かなりの洞察が入っている。「トランプ氏が強調したのが『投資』という選択肢だ。日鉄の計画はUSスチールの完全子会社化だったため感情的な反発を呼んだが、事業所への投資や一部の出資だったならそもそも大きな騒動になっていなかった可能性が高い」。ちょっと結果論的な気がしないでもないが、次のような考察も読んでおいて損はない。

「日本の一部の関係者は『投資』の意味を広く解釈し、交渉の余地ができたと好意的に受け止めようとしている。日鉄が当初計画通り、USスチールの完全子会社化を目指しつつ『これは投資だ』と言い切り、トランプ氏に認めてもらう作戦が考えられる」。ずいぶんと甘い事を書くもんだと思う人は、ちゃんと最後の部分も読んでおくべきだろう。

「7日の夕食会での発言を踏まえると、トランプ氏が日鉄によるUSスチールの『完全子会社化』を容認する可能性は低いと言える。引くに引けない日鉄を『投資』にいざないながら、試合巧者のトランプ氏は日本からの最大限の投資を引き出そうとしている」。トランプを「試合巧者」と考えてよいかどうかは、同時に彼が展開している外交政策の混乱ぶりも参照すべきかもしれない。しかし、そもそも「買収」と「投資」は根本的に異なる。日本側としては甘い夢は見ない方がよい。