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東谷暁による「事件」に対する解釈論

迫られる「メルツの選択」;ドイツは安全保障で欧州をリードできるか

ドイツの次期首相となりそうなCDUのフリードリヒ・メルツが、選挙での勝利の直後に発言したアメリカとトランプ批判は世界を驚かせている。「アメリカはヨーロッパに関心を持っていない」とまで言ったのだ。つまり、トランプはヨーロッパ抜きにプーチンを話をつけようとしているというわけだ。では、ドイツはどうするのか。ヨーロッパ諸国とともにウクライナ停戦に積極的にかかわらなければならない。ところが、そうするにはドイツには決定的なくびきがある。軍事予算が制度的に取れないのである。しかし、その解決法はある。


経済誌ジ・エコノミスト2月24日付の「ドイツは防衛強化するのに数週間しかない」は、メルツの発言を「残念ながら正しい」と評価しながら、その具体的な実行については大きな制約があることを指摘している。財政赤字が対GDPのわずか0.35%を超えることが、法制度的にできないとされているのだ。それはドイツの財政制度の根幹のひとつとされてきた。しかし、その維持にこだわっているかぎり、ドイツはヨーロッパの安全保障において積極的な役割を果たすわけにはいかない。その法制度を変えるには、議会で3分の2以上の賛成を得なければならないが、極左とされるAfDと組まなければ不可能だろう。


そこで同誌は大胆な案を提言している。いまの議会が有効なうちに、緑の党社会民主党をまきこんで3分の2の賛成をとってしまえというのである。これはかなりトリッキーな方法だが、いまは例外的な危機の時期なのだから正当化されるというわけだ。本当にこれが実現するかは、かなり微妙なところで、いまの議会は3月25日で終わりを迎える。それほどのリーダーシップをメルツが発揮するということは、これまでの経緯を振り返っただけでは予想できない。したがって、他の政党もこの案に賛同して、一気にこれまでの財政の考え方を改めろと同誌は主張している。

レームダック議会をこのように使うのはまったく非正統的である。多くの臆病者は、それを政治的に不可能だというだろう。そして、日曜日の投票で大勝した急進派は、そんなものは非合法的だとすらいうに違いない。ドイツ憲法裁判所はそれを違憲として拒否するだろうと予測する人もいる。しかし、私たちは、いまや非常事態に直面しているのだから、非常手段が必要だと考える」


こうした危機感が生まれただけでも、トランプによるウクライナ問題への粗雑な介入が、どれほど大きなインパクトだったか分かる。いっぽう、いまの日本を考えれば今も台湾海峡をめぐっての認識はあまりに身が引けている。ちょっと飛躍が大きいことは承知で書いているのだが、いわゆる軍事大国がいまやその鎧を隠すことなく自分たちのパワーを誇示しつつある。ジ・エコノミストが指摘するように、非常事態には非常手段が正当化されるのであり、たしかにそうした事態を認めるのは嫌なことだが、もうそこまでやってきている。

もはやかつての「協調」をとなえていれば、大国を中心に多くの国が同意して、何とかなった時代は終わったとみてよい。アメリカ、ロシア、そして中国は、これまで隠してきたパワー政治を全面的に発揮して、その権益を確保しようとしているのだ。ドイツの新しい選択がどうなるか、まだ、分からない。時間もあまりない。しかし、それが地球の裏側の出来事ではないことだけは認識する必要があるだろう。