ウクライナとアメリカは「復興投資基金」を通じて、ウクライナの鉱物資源を共同開発する協定を締結したことはすでに報じられている。しかし、その細部については曖昧なところがあり、とくに安全保障について明示的に述べられていないため、このままではアメリカの総取りではないかとの懸念も述べられていた。英経済紙フィナンシャル・タイムズは協定の文書を入手して、さらに周辺から取材することで、かなり明瞭な内容を炙りだしている。

「2月25日付でフィナンシャル・タイムズが初めて入手したこの合意は、ワシントンの最初の提案に比べると、ウクライナの負担がはるかに少なく包括的だ。鉱物採掘による収益は5000億ドルになる可能性があるという記述は削除された。また、貴重な天然資源からの利益を分配する見返りとして、キーウ政府が望んでいたウクライナの安全保障に対するアメリカの明確な保証は記載されていない」(フィナンシャル・タイムズ2月26日付)
まず、共同投資基金で得られた利益はどうなるかという問題だが、両国政府はウクライナ政府が所有する天然資源の「将来の収益」から得られる50%をウクライナがアメリカに拠出することになる。理論的にはこの基金はウクライナの戦後復興と経済発展のために投資することになるが、その対象は天然資源だけでなくあらゆる分野におよぶ可能性あるという。

では、何が採掘されることになるのか。ウクライナにはリチウム、グラファイト、コバルト、チタン、希土類(レアアース)など、重要な鉱物の大規模な埋蔵量があるとされる。また、石油、ガス、石炭の埋蔵量も存在する。これらすべてはウクライナ政府が直接または間接的に所有しているものについては、この協定の対象となっている。しかし、すでに税金、ロイヤルティ、ライセンスの対象となって政府財政に入っているものは対象にならない。つまり、いま利益を上げている国営石油・ガス会社であるウクルナフタ、ナフトガスなどは除外だ。
将来的に問題になると思われるのは、ここで対象となる資源は平時においても探査・開発に何年もかかることになり、また、鉱床のかなりの部分、現在ロシアが占領している地域にある。したがって、資源が存在する地域でプロジェクトが始まり、そこから課税対象になる営業利益が生まれるには何年もかかるだろうと見られている。このあたりのことを、ロシアのプーチン大統領との交渉を念頭において、トランプ政権がどのように計算したかがひとつのポイントだろう。

さて、ゼレンスキー大統領が問題にした安全保障のための約束についてだが、それは明確には得られていない。この協定合意のニュースなどでも安全保障は保証されていないと報じられ、それなのになぜウクライナ側が応じたのかさまざまな憶測を呼んだ。トランプ大統領は、この鉱物資源の取引は、これまでのウクライナへの援助に対する「見返り」をうる手段であって、その総額は3500億ドルから5000億ドルになると発言してきた。
しかし、前述のように鉱床の商業化の困難さを考えると、利益はそのほんの一部にすぎないだろうと同紙は述べている。また、ウクライナのゼレンスキー大統領は合意に至った理由に関連して、安全保障の保証は得られなかったが、「そこにはウクライナが望んだ安全保障の保証のすべてが含まれているわけではないが、私は少なくともひとつの保証に言及する文章を望んでおり、そしてそれはそこにある」と述べている。いちおう、その条項の部分を英文から訳出してみよう。

「10.この二国間協定及び基金協定は、二国間及び多国間協定の構造の不可欠な要素を構成するとともに、永続的な平和を確立し、経済安全保障の強靭性を強化し、この二国間協定の前文に定められた目的(両国がウクライナの平和を望んでいること、また、ウクライナの復興から他の国が利益を得ないこと望んでいる、等の文言がある)を反映するための具体的な措置を構成する。
アメリカ合衆国は、ウクライナが永続的な平和を確立するために必要な安全保障を獲得する努力を支持する。参加者は、基金協定で定義されている相互投資を保護するために必要な措置を特定するように努める」
なんとも不思議な外交的文章で分かりにくいが、アメリカはこうするという文章はないものの、努力目標としてウクライナの安全保障を得ようとする営為を支持するということらしい。同紙によれば、交渉にかかわったウクライナの高官たちは、合意を最終決定するためにトランプ政権から強い圧力を受けていたという。

この点については、BBCの「ウクライナ当局者、アメリカとの鉱物取引を認める」(2月26日)を見てみよう。「交渉を主導してきた(ウクライナの)ステファニシナ副首相は『アメリカ政府から何度も聞いているのは、これはより大きな枠組みの一部だということだ』と述べた。(協定文書の10の第一項のことだろうか)ウクライナの情報筋によると、アメリカはウクライナに対するいくつかの厳しい要求を撤回せざるを得なかった。また、合意内容の多くの詳細は、さらなる交渉が必要だと言う。しかしこれで、トランプ政権によるアメリカの援助には条件がつくという前例ができた。人道的または戦略的理由で提供される援助は過去のものとなった」。つまりアメリカ外交政策の根本的な再編成を意味するというのだ。だから、前進しているのだというわけである。
フィナンシャル紙に戻るが、ウクライナの高官たちは金曜日(28日)にホワイトハウスで、ゼレンスキーとトランプがこの文書に署名すれば、ロシア戦争を終わらせようとするトランプ大統領の取り組みの一環として、軍事支援やさらなる保証についての詳細な協議への道が開かれることを期待していると語ったという。しかし、すでにトランプ大統領は水曜日に開かれた最初の閣議で「安全保障については、これ以上の保証はしないつもりだ」と述べていることは、世界中で報道されている。
【増補】28日現在で、ロイターが「米ウクライナの鉱物合意に「法的空白」、安全保証含まれず=専門家」を流している。それによると、専門家4人がロイターに対して「法的空白」があり、今後協議が必要だと指摘しているとのこと。具体的にはオランダのライデン大学のマクガリー助教(国際法)は、「この協定からは、協力義務は生まれるが、防衛に関しては拘束力をもたないことが見て取れる。米国は具体的な保証を与えていない」と述べている。また、アメリカのデューク大学のメイヤー教授は「協定ではロシアの侵攻に関する解決制度や基金でのアメリカの取り分に関して言及しておらず、議論の余地がある」と指摘したという。