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東谷暁による「事件」に対する解釈論

ゼレンスキーとトランプが口論の末に決裂!;「詰め」のない外交の無様な失敗を裏から見る

ゼレンスキーとトランプのホワイト・ハウスでの会談が決裂した。すでに鉱物資源協定は合意に達したと報じるところもあったが、やっぱり詰めが終わっていなかったのだ。公表されている会談の様子を伝えるビデオでは、二人は激しくやりあい、そこにバンス米副大統領も割ってはいり、ほとんど外交の素人たちの醜態といってもいい。ほとんどの政治的会談はショウのようなものとの観念を裏切り、観客として見ている分には面白いが、これでまた和平は遠のいた。


すでに報道されているので、その前提の部分は端折るが、ともかく馬鹿げた話だった。鉱物資源協定の協定文でも、アメリカの安全保障への関与は努力目標でしかなく、なんの確約も盛り込まれていなかった。それに対してウクライナのゼレンスキーは、最初は激しく反発し、トランプもゼレンスキーを罵っていたのに、ホワイト・ハウスで会談をし、さらに署名まですることになっているとの報道に、何らかの進展と妥協を想像した人は多かっただろう。

しかし、現実にはその場その場でやっつけるというトランプのディール主義と、ショウアップされた舞台で派手に振舞えば観衆を味方にできるというゼレンスキーの臨場主義がぶつかったところ、ただの罵り合いになってしまったという、外交史でもめずらしい光景が、なんとビデオで見られたわけである。トランプについてはすでに知られているとおりだが、ゼレンスキーの場合を少し加えておく。


ゼレンスキーは大統領になって少ししたころ、ドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領の介在でプーチンと対面し、本人の主観によれば「すでに東部の紛争地で1万人も死んだのだから、(ロシア語で)ちゃんと話せば分かってくれる」と思っていたが、プーチンのほうは「テレビドラマで大統領を演じるのと、現実の世界で大統領になるのは大きく異なっている」という考えのもと、ゼレンスキーを馬鹿にしていたので、挨拶しただけですぐにプーチンは自国の長い顔をした外務大臣を紹介しただけだった。

この外務大臣ラブロフは最初からゼレンスキーの言うことなどまともに取り合わず、何をいっても「ダー(イエス)」「ダー」とうなずいているだけだった。そのうち、ゼレンスキーは切れてしまった。「あんたのダーなんか沢山だよ。その頷き顔もいらない」といって席を立ってしまった。もちろん、ゼレンスキーは新しい協定なり合意なりの何の準備もしていなかったので当然の成り行きなのだが、このときからゼレンスキーの外交に関する感覚は少しも進歩していない。


ゼレンスキーを責めるのは間違っているという人は多いかもしれないが、協定についての合意がなかった段階でいきなりホワイト・ハウスに行こうと、クレムリンに行こうと、何も決まらないのがいまの外交というものだ。首脳同士が興に乗って何かを決めようとすれば、すぐに外務省が乗り出して話を中断させるか、直後にあれは決まったことにはならないと取り消す。

むかしむかし、ゴルバチョフレーガンが冷戦終結の1年前に会談していて、ここまで話ができたのだから、いっしょに核廃絶を宣言しようと「合意」したことがあった。もちろん、その直後に互いの外務高官が介入して取り消した。これも昔昔、エリツィンが橋本首相と会談していて、エリツィンが上機嫌で四島は返還してもいいとかいう話をし始めたそうだが(ウォッカが大量に入っていたのではないか)、すぐに外務大臣だったか高官がその話はやめさせたという。


今回のゼレンスキーの抗いを英雄的なものと見る人も多いだろう。事実、ヨーロッパ首脳の何人かがゼレンスキー支持を宣言している。しかし、そもそもここまでトランプにしてやられてヨーロッパ諸国が蚊帳の外に置かれたということ自体が、ヨーロッパの敗北と衰退を如実に示すものだった。その意味ではヨーロッパ諸国はこれを反省して外交力を復活させる良い切っ掛けとなったかもしれないが、では実際に何をするかといえば、軍事や外交どころか資金支援だって、本当はやりたくないのが本音であり現実なのである。