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東谷暁による「事件」に対する解釈論

トランプがウクライナとの再交渉を示唆;本当に米国の支援が途絶えたときどうなるか

トランプ米大統領は議会での演説のなかで、ウクライナのゼレンスキー大統領がメッセージを送ってきて、「ウクライナは鉱物資源協定に署名する準備がある」と述べていると公表し、鉱物資源協定とウクライナ戦争への支援が継続する可能性が高まったことを示した。これはすでに予想されていたことで、両国の高官がそのことは示唆している。しかし、今後もこうした事態が生まれるリスクはなくなっておらず、依然としてウクライナの対露の戦いは綱渡りの状態が続くことになる。

こんどは、この格好で米大統領執務室に行ってみたらどうか


英経済紙フィナンシャル・タイムズ3月5日のライブ報道で「トランプはゼレンスキーの鉱物資源協定への交渉に復帰することを確認した」が流された。トランプは議会での演説で「彼がレターを送って来たことを評価する」と述べるとともに、同時にロシアに対しても連絡していて「ロシアが平和への準備があるとの強いシグナルを受け取っている」と付け加えたという。

同紙は、トランプはロシアとの本格的な和平への外交が始まる以前に、ロシアへの譲歩を提示しながら、ウクライナとの同盟関係を強調しているが、これはアメリカが将来的にもウクライナへの支援を続けることを求めるヨーロッパ諸国を警戒させていると分析している。鉱物資源協定の交渉は単にアメリカの資源外交ではなくて、ロシア、ヨーロッパ、アメリカの、ウクライナを巡る新しい関係を探っていると見ているようだ。

口論になる可能性のある会談を公開すること自体が間違っている

 

すでに同紙は前日に「ウクライナはこの夏までに米国製武器が枯渇する」との軍事分析を掲載していて、ウクライナの情報機関の高官による「アメリカによる軍需物資は、おそらく2、3カ月で枯渇するだろう」との言葉を紹介していた。「米国務省によると、過去3年間のアメリカの軍事支援は659億ドルにのぼる。米議会は1750億ドル近くを通過させているが、そのうちウクライナに直接渡ったのは(3分の1強の)一部にすぎず、他の資金は米国内でのウクライナ軍の訓練など他の目的に使われた」という。

アメリカによる支援でいちばん大きいのはパトリオット・システム5基だといわれ、ウクライナ軍が使用しているこの迎撃ミサイルが不足すれば、同国の防衛能力に大きな打撃を与える。また、ドローンについても、現在はウクライナ国内でも生産されているものの、やはりアメリカからの継続的な供給が戦力として大きいという。

圧倒的部分をアメリカに頼っている。しかも、これがすべてではない


さらに、アメリカが提供しているヒマール多連装ロケット砲なども、ロシア軍の司令部や兵站センターを攻撃するのに大きな威力を発揮していて、「ヒマールに変わる現実的な手段はない」といわれる。意外に大きな力を発揮しているものとして、同紙はイーロン・マスクが供給している衛星インターネット・プロバイダー「スターリンク」を挙げている。「スターリンクが停止すれば、すぐに問題が起きる」というのが、多くの軍事関係者の認識らしい。

ft.comより;スターリンクを使うウクライナ


もちろん、ウクライナ軍内にも自国だけである程度は戦えると主張する軍人および関係者はいる。たとえば、スターリンクが使えないロシア領内でも、ウクライナ軍は戦っている。そしてまた、「米国が消えてしまっても戦えるように訓練する必要がある」と主張してきた軍事資金調達組織の運営者もいる。「われわれは自国で何とかして、欧州のパートナーとともに自国の防衛産業を発展させる必要がある」。しかし、それは将来的には正しくても、目の前にある現実の解決策とはいいがたい。

いままでいったい何種類のシャツをデザインさせたのだろうか

 

フィナンシャル紙は3月5日付の「ゼレンスキー大統領はトランプをなだめるためウクライナは交渉の『用意』があると述べた」のなかで、ゼレンスキーの「反省」について触れている。「ゼレンスキーはトランプをなだめるために反省の意を表し、(アメリカに対する感謝の意を示しつつ、)大統領執務室での口論は『残念だった』と述べた。彼は両国の対立により協定締結の計画が頓挫した後も、ウクライナは鉱物資源協定に『いつでも、都合のよい形式で』署名する意向を維持していると述べた」という。かなり微妙な「反省」だが、これが本人の気持ちだけで行われたとは思われない。

もうひとつ同記事で注目すべきは、ウクライナ戦線に与える大きな影響についての部分である。「ウクライナ首相は、米国がウクライナへの軍事支援を停止すると発表した後、火曜日の記者会見で米国製のパトリオットの供給と保守にかかわる大きな危険があることを認めた」。つまり、他の空中からの脅威ならばキーウにある対空システムで破壊できるかもしれないが、「パトリオットがロシアの弾道ミサイルを撃墜できる唯一のシステムだ」と認めたわけである。

ft.comより;パトリオット・システム


今回はゼレンスキーが屈辱を受け入れたかたちになったが、時期がくればアメリカとロシアは別のウクライナの交渉相手を必要とする可能性は高い。いまウクライナで大統領選挙を行なえば、ゼレンスキーは落選して、他の人気のある元司令官などが当選する可能売性が高いと指摘する論者もいる。もちろん、アメリカとロシアでは必要とするウクライナ大統領の性格は異なる。しかし、それは両首脳がどこまで、どのように妥協するかの問題で、その時期が来るのは意外に早いかもしれない。あとはトランプのデタラメな外交と経済政策が、米国内でどれだけ、そしていつまで、アメリカ国民の支持を維持するかにかかっている。こちらは自分たちに脅威が迫っていない分だけ、ゆっくりになる可能性が高い。